werewolfの分割ページです。長くなりすぎたので、黒ログだけまとめました。
■物語にwerewolfから「18回目」を追加しました。(8/23)
■現在、キリリクコラボ、声入れ版の試聴ができません。(2/6)
■Short Storyに「The howl on the scaffold」を追加しました。(4/12)
狼達の遠吠え 血の歌
人は闇を恐れ、そうでないものたちは光を恐れる。
近づく夜明けの気配に、獣達は歩みを止め、寝床へ帰る。
昼は人の時間。夜は別のもの。
まだ暗い中、羊飼いは目を覚まし、一日を始める。
山の端が白み始め、夜明けの風が太陽に一足早く巡り、人の時間が来る。
「こんばんは。宿を貸してほしいんだが。」
朝もやの中、キィと、戸を押して入ってきたのは、深い緑のコートを纏い、つばの広い帽子を被った男。
その声に、宿にいた何人かが振り返る。
…ほら、これでも飲みなよ、落ち着いて…
…これはラクになりますよ、さ、さ、御代はいりませんよ…
何人かの声が聞こえる。何か奥でしているようだ。
「こんばんは、旅人さん。お疲れ様だね。」宿の女主人が声を掛ける。
「あぁ、ありがとう。少しね。えっと…何か、あったのかな?」旅人は奥に視線を移し、尋ねる。
女主人はその視線に合わせて、奥に目をやる。「いやぁ、ちょっと前ね、村の女の子がね、何か大きな獣に襲われたって、ヨアヒム…って、あの男の子ね、と一緒に飛び込んできたのさ。」
「大きな獣…?」それを聞いて、旅人の目の色が少し変わった。
女主人は奥を見たまま続ける。「あぁ、で、大分、ガチガチに震えてて…丁度、変な噂も聞いてたからね。皆が慰めたり、様子を聞いていたりしたのさ。…まぁ、大分落ち着いてきたみたいだけどねぇ。最初の動揺の様子といったらね。何があったのかと思ったよ。」
「ふむ…。」
「こんばんは、旅の方。」奥から男が一人やってくると、台帳を覗き込んで言った。
「っと、ニコラス君、と言うのかな?」
「あぁ、そうだが…アンタは?」
「これは失礼。私はこの村で村長をしているヴァルターという。失礼だが、何処からおいでで?」
「西の方からだが…それが何か?」
旅人は少しムッとしたように返した。
「いや、失礼。実は、もう聞いたかもしれないが、ちょっと、村の娘が何か大きな獣に襲われたと言っていてね。何か、そんなモノを見なかったかなと思ってね。」
「人狼か?」
旅人のその言葉に、村長を含め、今度は間違いなく奥にいた全員が驚いたように振り返った。
旅人は少し古びた本か手記らしきものを取り出すと、続けた。
「人狼。食性は肉食。視覚、嗅覚、聴覚、膂力、俊敏さ、生命力等、その能力は人間のそれを遥かに超える。人間に変身する事ができ、人語を理解する。人間と人狼の識別は困難である。羊や牛などの家畜を襲う事もあるが、人間を好んで襲うことが多い。その性格は極めて残虐であり、個体によっては、猫がネズミを用いて遊ぶように、被害者を心ゆくまで嬲るとも言われている。人狼と月とには大きな関係が認められており、満月に近づくに従い、その力、嗜虐性は増す。それを殺すには銀が有効とされているが、中軽度の傷を負わせるだけでは効果は無いとも言われる。」
「その様子では、人狼でも出たのかな?」本を閉じながら、旅人が聞いた。
「いや、推測に過ぎないのだがね、ちょっとそんな噂があった…」
「おぃおぃ、旅人サンまで、そんなおとぎ話を信じてるのかぁ?」と、奥から男がそれを遮る。
赤毛、右目の上にひどい傷跡がある。
「全く、人狼だって?んなもん、どこの夢物語だ?アンタもそう思うだろ?旅人さんよ?」
「かもしれないな。えっと…?」
「ディーターだ。ディって呼ばれてる。」
「あぁ、ディ。ニコラスだ。そうかもしれないな。が、不思議な事はあるものさ。」
「ふん。となると、アンタも人狼なんてのを信じてるクチか?」
「ディーター。人狼の存在を信じてなどいないさ。存在を知っているんだ。」
一瞬、ニコラスとディーターの視線の間の空気が張り詰める。
「…へぇ、こいつぁ驚いた。村長のおとぎ話の次は、どこぞの旅人のほら話か?」
「ディーター。オレもこの村に人狼がいるかどうかまだ分からない、が、もし人狼がいるとするなら、アンタでも否が応にも知ることになるだろうさ。」
「ふん。そいつは願ってもねぇな。」
数瞬の後、二人はどちらかともなく目を逸らした。
「村長さん。あの襲われた娘は怪我はしてないのか?」
旅人は、カウンターの椅子に座りながら、二人にやりとりを任せていた村長に尋ねた。
「あぁ、幸いな事にね。あそこの若者が間一髪助けたようで、怪我はしなかったようだ。」「助けた…か。」と旅人が呟く。
「まぁ、怪我はしていないようで何よりだ。ちょっと落ち着こう。女将さん、ブランデーを軽くもらえるかぃ。」少し考え込んだ後、旅人は女主人に声を掛けた。
「…さて、と。私は仕事に戻らなければ。少し席を外す事にするよ。また夜にでも会おう。」
ヴァルターはニコラスに目で挨拶をすると、奥の男たちに声を掛け、階段をあがっていった。
それを目で見送るニコラスに、「旅人さん。」と、後ろから声がした。
振り返ると、そこには利発そうな栗色の髪をした少年が立っていた。
「旅人さんは、狼について詳しいの?」
「あー…っと、君の名前は?」
「ペーター。今は寝てていないけど、リーザって子の友達で、皆にはペタって呼ばれてるんだ。」
「ペーターか。よろしくな。まぁ、詳しいという程じゃあないが、昔ちょいとあったんでね。」
「ね、ね、それ、聞いてもいい?」少年は興味津々に、目を輝かせて尋ねた。
「っと…すまないな、ペーター。大した話じゃないんだ。」
言葉を濁した旅人を見て、さらに聞こうとする少年を女主人が嗜める。
「ペーター。旅人さんも疲れてるんだから、そこらへんにしな。」女主人に悔しそうな目を向ける少年を見て、旅人は少しの間の後、言った。
「ペーター。君は小さい頃のオレによく似てる。色んなコトに興味をもって、ね。いや、本当に大した話じゃあなかったんだ。ただ…。ただオレの村が人狼に滅ばされたってだけさ。」
予想外の答えに、少年も女主人も思わず手を止める。
「ふぁーあ……ねむいな……寝てていい?」
その数瞬の沈黙を破ったのは、若い青年の声だった。
読書の途中か、片手に手製の手記を持っている。
賢そうな印象を受ける金髪の青年が、欠伸をしながら立っていた。
「ゲルト、こんな時間までお疲れさんだったね。っと、皆も少し休むといいよ。」
レジーナは青年を労うと、奥に残る数人にも声を掛けた。
その様子を見ていた旅人も席を立った。
「さて…と、オレも休ませてもらうとするよ。夜通し歩いてちょっと疲れちまった。」
旅人は少年の頭に手を置くと、階段を上っていった。
朝もやは消え、湿っぽい陽気が訪れる―
人の時間にも関わらず、まとわりつく
何か、どこかしらの嫌な空気
ニコラスが階段を下りてきたのは、既に昼近くなった頃だった。
「おはよう、ニコラスさん。」
「おはよう…えっと、ヨアヒム、だったかな?」
ニコラスは声を掛けてきた青年に挨拶をかえす。
明るさを感じさせる、人懐っこい顔の青年。
「そうだよ。誰かに聞いた?」
「レジーナだっけか。ここの女主人の。」
青年はやっぱりね、とばかりに頷いた。
「ヨアヒム。君はあの子が襲われた時、傍にいたんだよな?怪我は大丈夫か?」
「全然平気。大丈夫さ。」
「それは良かった。っと、今朝、あの子が襲われた場所を教えてもらっていいかな?」
「あー…、勿論いいよ。この時間は…大丈夫、だよね?」
「大丈夫だ。…場所を教えてくれるだけでいいんだが?」
「いや、そこまで案内するよ。」
「ヨアヒム。君が彼女を助けたんだよな?」
行き道、旅人は青年に話しかける。
「そうだけど…。」
「何で向かっていったんだ?」
「何って…いや、そばにある、棒切れで。」
「くっく。よくもまぁ。」
ニコラスは笑いながら、ヨアヒムを見る。
「ヨアヒム。気をつけろよ。もう少しうまくやりな。」
…
「そうか、ヨアヒムはあの娘の事が好きなワケだ?」
旅人は青年と荒野の道を辿りながら、青年に尋ねる。
「なっ、何言ってんだよ…。ち、ちが…っ。」
「違うのか?」
「ま、まぁ…うん。好きと言うか、好きになってもらいたいというか…。」
「それは色々とたのしみだな?」
ニヤッと笑う旅人に、青年はやっと悪戯っぽい笑顔でそれを返した。
「あはは、本当だね。」
「ここだよ。」
青年が指し示した場所は荒野のはずれ、森との境界にあった。
石灰質の岩が所々に見える中、羊が何匹か引き裂かれて死んでいる。
曇ってきた空のせいでもあろうが、決して、明るいいい雰囲気ではない。
ヨアヒムが周りを見渡しているのを傍目に、ニコラスは調べ始めた。
「ねぇ、何か分かった?」暫くの後、ヨアヒムはニコラスに声を掛けた。
「人狼は1匹だ。少なくともあの子を襲ったのはな。」
「どうして分かるの?」
「ここの足跡だな。同じものしかない。」とニコラスは示す。
「人狼に間違いないの?」
「間違いないな。こんなデカい普通の4つ足狼なんていやしないだろ?これは2本で立ってる。」
「へぇ。さすがだね。ニコラスさん。」
旅人はふと手を止め、空を見上げる。
「…雨だな。」
いつの間にか、大分黒い雲が広がっている。
「え…?」
青年が空を見上げるか見上げないかのうちに、大粒の雨が降ってくる。
叩きつける大雨に呟く。
「やれやれ、ギリギリだったな。雨が降る前に確認できてよかった。帰るか。」
「ニコラスさん、帰ろう!」走り始めたヨアヒムが大声をあげる。
「…?」
と、ニコラスは振りかえり、茂みを見る。
「どうしたのー?急ごうよー!」
遠くからヨアヒムが叫んでいる。
「分かった。今行く。」
振り返らず茂みを見つめていたニコラスも、ふっと身を翻し、宿へ走り始めた。
「っと、酷い雨だな。ここはいつもこうなのか?」
「いや、普段はこんなに酷くは…」
宿に駆け込んだニコラス達に、暖炉の前から老人が答える
「いや…通り雨じゃろ。今は酷いが、じきに止むじゃろな。」
白髪の老人で、見事な顎鬚をたくわえている、思慮深い印象の老人だ。
「そうか、爺さん。あんた、この村のこと詳しそうだな。ひょっとして、」
「ぺっぺっぺっ。ひっでぇ雨だな。」
と、びしょ濡れのまま駆け込んできたのはディーター。
続いて、「せっかくのマキが濡れちまったよ。レジーナ、乾かしといてくれ。」
と、筋肉質の男が部屋に入り、木片と斧を床に置いた。既に上半身の服を脱いでいる。
「分かった。ありがとうよ、トーマス。でも、アンタら全員、体を拭きなっ。床もビショビショじゃないか。」
と、タオルを投げるレジーナ。
顔を見合わせる4人。ニコラスとディーターの間でさえ、心なしか一瞬空気が緩んだように感じた。
「っと、もう夕方だな。ちょっと上にあがって休むことにするさ。」
暫く髪を拭いた後、ニコラスは立ち上がった。
「あぁ、ニコラス。さっき、オットー、パン屋さんね、が、パンを置いていってくれたから、持っていったらどうだぃ?」
「あぁ、すまないな。っと、その彼はどこに?」
パンを一つ取ると、ふざけて匂いを嗅ぐ真似をしつつ、レジーナに尋ねる。
「まだ仕事があるとかで、店に戻っちまったけど、また夜にでも来るんじゃないかぃ?」
「分かった。彼にもよろしく伝えてくれ。」
ヨアヒム達に目を合わせると、ニコラスは階段をあがっていった。
…
「丁度イイ頃合でしょ?噂もたったし、何より、もうすぐ満月だしね。」
「まぁな。だとすると、この村の人間はもう必要ないな。」
「あはっ。どうせ全員消すなら、愉しくやろうよ。」
「そうだな。1匹1匹喰ってやって、せいぜい恐怖を与えてやろうじゃないか。」
「あははっ。愉しみだね。これでやっと、堂々とエンリョなく、この村の人間を喰えるってワケだ。」
「分かってるだろうが、アイツはオレが喰うぞ。アイツはオレのものだからな。」
「分かってるよ。アンタのお気に入りを奪って、殺される程馬鹿じゃないからね。」
「とりあえず、今晩から喰ってやるか。オマエは誰を喰いたい?」
「ゲルトはどう?アイツ、さんざ人狼なんていない、なんて言ってたじゃん。どうせ寝てるだろうけど。」
「…悪くねェな。ニンゲン共への見せしめにゃあ十分だ。じゃあ、後でちょいと喰い殺してきてやるか。」
狼達のささやき
月への賛歌、血の歌
近づく闇の気配
殺戮の悦びに震えて
真夜中
月が静かにたたずむ
まだ冷たい風の吹く夜の下
遠く、狼の遠吠えがきこえる
ゲルトはまだ寝ていなかった。一心不乱に机に向かって何かを書き付けている。
カーテンは固く閉じられ、明かりも最低限しかつけていない。
ふと、気配を感じ振り返る。
何もいない。気のせいだ。まだバレていない。
向き直ると、再び書き始めた。
と、その瞬間。
頭を掴まれ、壁に叩きつけられた。
「ぅぐッ…!」
「静かにしろよ…って、まぁ、呻き声も出せねェだろうがな。」
明かりが倒され、暗闇の中、口を塞がれそのまま頭を押さえられる形で壁に押し付けられる
「ぅ…ぐ…。」
頭がミシミシなっている
バレた…!?コイツは誰だ!?
必死で相手を見ようとする。
真っ暗闇で何も見えない。相手が誰でも、狼の姿なら分からないじゃないか。
待て、真っ暗闇?なら、ひょっとして…?掴まれたまま机の方を見る。
このままならひょっとして…
「ゲルト。イイ表情をみせてくれよ?」
ズブ…ッ!
口を塞がれたままいきなり、しかも、いとも簡単に爪が腹に突き込まれる。
「・・・・・!!!」
激痛に考えが吹き飛ぶ。床にこぼれる血。
「ククッ!そのカオ。悪くねェな。ゲルト、もっと、もっと愉しませてくれよ。」
ズッ…ズズッ…。
そのまま明らかにそれを狙って、ゆっくりと腹が掻き裂かれる。
「・・!!・・!!!・・・・ッ!!!!」
叫び声が声にならない。痛みで目から涙が溢れる。
噴き出す血が、獣の体を伝い床に広がっていく。
頭は押さえつけられ全く動かせないにも関わらず、体が激痛に暴れまわる。
「ククッ。活きがイイじゃないか。ゲルト? んー…、イイ血の匂いと感触だ。堪らねェ。」
人狼は鼻をヒクヒクさせそう言うと、ぐっと顔を近づける。
「ゲルト。オマエ、人狼なんて信じない、なんて言ってたよなぁ?クック。オレらはずっとオマエの隣にいたんだ。が、もうオレらがこの村に隠れる必要はなくなったからな、オマエらももう用済みだ。ククッ。もうこの村の人間を喰いたくて、我慢する必要はないのさ。今夜から、オレ達の素晴らしい宴が始まるのさ。ニンゲン共の血と悲鳴にまみれた、な。オマエはその最初の獲物だ。あぁ、安心しろよ。残りのヤツらも、1匹1匹、全員、残らず、嬲って、引き千切って、喰い殺してやる…!1匹たりとも逃しゃしねェよ。」
涙まみれのゲルトの顔を見下ろしながら、「ベロッ」と血まみれの爪を舐め、愉しそうに笑う。
獣は、必死で意識の淵にしがみ付くゲルトに向かって、言い放つ。
「苦痛の中にオレらに嬲られるコトがオマエらニンゲンの存在意義だろうが。まだ終わるんじゃねェよ。もっと、泣きそうなツラして、愉しませてくれよ、ゲルト?」
口を塞いでいた手を離し、喉を掴みあげると、再び、心から愉しそうに、ゆっくりと、爪を刺し込んでいく。
「・!・!・・・・・・・。」
もはや、獣の腕を掴んでいたゲルトの腕も緩んでいく。
と、人狼は手を止め、振り返った。ガチャッ と戸を開ける音がした。
鼻歌を口ずさみながら部屋に入り、戸を閉める人影。
「ゲルトいる…かな?」
声はもはや出ないが、霞む目に涙を浮かべて顔をあげ、手をわずかに伸ばすゲルト
「に、げ・・・」
その人影は立ち止まって、言った。
「なんだぁ。まだ終わってなかったの?嬲るの、愉しみすぎじゃない?」
思わぬ答えとその声に、目を見開くゲルト
「ゲルト。あはっ。ビックリした?信じられないって顔してるね。人狼なんているハズないなんて言ってたよね?ザンネンだったね。」
ゲルトは絶望の表情を浮かべると、体から、ふっと力が抜けた。
「あはっ、もっと喜んでよ。ねぇ?どんな悲鳴をあげたのさ?」
「…ネイル。もう聞こえてない。」愉しそうに笑う獣。
「なーんだ、ツマラない。どうせならもう少し生かしといても良かったのに。」
「そういうなよ。所詮、ゴミみたいに脆弱なニンゲンだ。オレが軽く嬲っても、すぐに弱って死んじまうからな。コイツも同じさ。」
見下ろされるゲルト。わずかに痙攣する体。その目に涙が光っていた。
「さて、まだ生きてる内に、喰っちまうか。」
獣はゲルトを放り投げると、舌なめずりをして牙をむき出した。
窓を叩く風の音
まだ寒そうな音だ
やれやれ、なんでこんな不機嫌なんだ
まぁ、理由は分からないでもないんだが
ニコラスは窓を叩く風の音を聴きながら、寝床の上に寝転がり物思いにふけっていた
ごろっと寝返りを打つと、窓の外に目をやる。朝は近づいているものの、まだ空は白んではいない。
ふと、外に気配を感じ、戸に目をやる。
と、「ニコラス、開けてくれ!ゲルトが!」
激しく戸を叩く音でニコラスは起き上がった。
戸を開けると、ヴァルターが息せき切って立っていた。
「ゲルトが襲われた!今、若い者たちに皆を集めさせてる。来てくれ。」
部屋の前には数人の村人たちが、落ち着かない様子で立っていた。
ディーター・トーマスが戸の前に、腕組みをしている。
「誰もまだ入ってないな?」
ヴァルターは、ディーターに確認すると、懐から鍵を取り出した。
「開けるぞ。女子供は下がりなさい。」
「村長さん、僕だって…。」
「ペーター。下がりなさい。」
村長の厳しい声に、しぶしぶ下がるペーター。
「さて…。」
激しく荒らされた部屋
壁まで飛び散った血と床に広がった血の海。その真ん中に、喰いちぎられ、転がっているゲルトが「あった」。
「…っ!…酷いな。」トーマスが呟く。
「あぁ。」ディーターが相槌をうった。
「うげ…。」一瞬、中を覗き込んだオットーとヨアヒムが、慌てて外に出て行く。
「オットー、ヨアヒム。ペーター達を下に連れていってくれ。」後ろからヴァルターの声が追いかける。
ニコラスはヴァルターに目を合わせると、しゃがみ込み、調べ始めた
その様子を、ヴァルターやディーター達が、少し遠巻きに見る。
「…人狼だ。やれやれ。ヤツら、大分、お愉しみだったようだな。ご丁寧に爪跡と足跡を残してやがる。」
「それは気付かずにって事か?」ヴァルターが尋ねる。
「…それは無いだろうな。ヤツらは極めて狡猾だ。こんなコトに気がつかないハズはないさ。…って事は、どうせオレ達を怯えさせて、それを愉しんで眺めてるんだろうさ。」振り返りながら、ニコラスが言う。
「人狼は最低2匹いる。」
一回のリビングに集められた村人たちの前で、ニコラスは言った。
「今日、娘さんが襲われた所に行った。そこに残っていた足跡と、ゲルト、彼の部屋に残っていた足跡は違う。」
動揺が村人の中に広がっていく。
「人狼なんて…そんなモノが本当にいるなんて…。」
「人狼が2匹…。」
「ゲルト…。『人狼なんているハズない』って言ってたのに…。」
黒髪の少し大人しそうに見える、まだ若い青年が涙声混じりで言った。
「オットー。誰もがそう思っていたさ。」
レジーナの声に、数人が頷いた。
が、その時、何かを読みながら話を聞いていた村長が切り出した。
「いや、どうも、ゲルトはそうは思っていなかったようだ。」
ヴァルターの声に数人が振り返る。
「ゲルトの手記だ。血が飛び散っているが、十分読める。」
それは、先ほど、ゲルトが持っていた手記だった。
机に放り投げられたそれをヨアヒムが取って、読み始めた。
…も好きなのかな。
10月23日
疲れた。何とか帰れた。今日は酷い。信じられないものを見た。何を書いていいのか分からない。さっき、帰りがけ、悲鳴を聞き、走っていくと、2人の男が襲われていた。その相手は普通の獣でも、人間でもなかった。毛むくじゃらで、狼の顔。足は大きく曲がり、2本の足で立っていた。人狼だった。森の中の、泉の近く、少し開けた場所。間一髪、慌てて伏せて様子を伺う事ができた。一人は既に地面に倒れており、もう一人はナイフを取り出して、戦っていた。でも、僕より遥かに強そうだったのに、人狼に弄ばれて、まるで相手になっていなかった。僕なんかが飛び出して、勝てるはずが無かった。いや、そもそも人間に勝てたのだろうか。風向きが下向いていたら、すぐに気付かれて、間違いなく僕も殺されていたと思う…。今から考えるとぞっとする。人狼はひとしきり旅人を嬲った後で、何でもない事のように喰い殺していた。物音などたてられるハズは無かった。一部始終を見ていた。見ざるをえなかった。人狼がその場を離れた後、十分過ぎると思える時間のあと、最新の注意をして、帰ってきた。見つかってはいない…ハズだ。あんなモノがこの世にいるなんて…。人狼は人の姿をとる、という。ひょっとして、この村の人間の中にまぎれこんでいる可能性は?
24日
昨日の場所にもどってみようか考えたが、すぐに思い直した。そんな危険な事はできない。今日は一日、村で過ごした。いつもと変わらない村。いつもと変わらない村のみんな。特に変わった様子はない。けれど、昨日の「あれ」は、尋常なものじゃなかった。人狼が完全に人間になれるとして、それがこの村にいるとして、そして、’’昔からいるのなら’’、果たして、見つけることなど出来るのだろうか。
26日
色々な事を調べ始めた。「人狼。普段は人間の姿を取り、月の晩に、人狼の姿になって人間を襲う。極めて残虐な性格である事が多い。普通の狼と異なり、2本の足で立つ事ができる。その目は、もとの人間の目と同じであると言われる。」そして、行方不明者。隣の村々では行方不明が遥かに多い。「何か」に襲われて死んだ人間も。この村のそれとは比べ物にならない。あの人狼は、この村にいるのではないのか。いや…恐らく、いる。
[殺した猫の脂肪−アニスの実]
人狼。そんなのはただのおとぎ話だと思っていた。馬鹿みたいな話だ。でも、事実だ。昨日、隊商が襲われたらしい。どうする?あれは魔物だ。人狼は人間に化けられる。そして、恐らく、この村にいると思って間違いない。けれど、人狼がいるなんて言い触らせない。そんな突拍子も無い事、誰に信じてもらえる?それに何より、誰が狼か分からない状況で、そんな馬鹿な事はできない。狼達に気付かれたら、僕一人を殺すなんてのはヤツらにとっては造作もない。ヤツらに気付いてるのは僕だけか?そうなら、気付かれたら、喰われてしまったらおしまいだ。どうしたらいい?僕はヤツらに消されて、村は何事もなく過ぎていく。そして…いつか村は滅ぼされる。
12月
過去の伝承も調べ始めた。今までおとぎ話だと笑っていたものが、救いの書に思える。
「人狼は極めて狡猾であり、その正体を出すのはまれである。人狼を殺すには、人狼と思わしき、疑わしき者を吊るしあげ、殺すしかない。」
「狼人間を真に殺すには、首を落とし、その首と胴の両方を焼き、その灰をまかなければならない。」
…考えられるのは、その時が来るまで待つことだ。人狼たちはこの村の人間を殆ど襲ってはいない。それには理由があるはず。表向きは人狼なんて馬鹿な話だと振舞わなければ。そして調べよう。力も生命力も、何もかも人間は人狼に勝るところはないと言われる。それは事実かもしれない。でも、それなら人間はただ人狼に喰われるだけの存在になってしまう。そんなのはおかしい。何か、何か、人間には、ヤツらに対抗する方法があるに違いない。
聖水
銀の弾
干草用フォーク
…この間の旅人、下の谷で、喰いちぎられているのを見つけた。多分、誰もそんな事は知らない。…人狼たちを除けば。誰かにカマをかけてみる?いや、それは危険だ。どうしよう。僕は無力だ…。
あの旅人はレジーナの所に泊まっていた。もし、レジーナが狼なら自分の宿で襲うか?いや、自分の宿だからこそ襲わないとも考えられる。
…結局、堂々巡りだ。村に人狼がいるのは分かってる。でも、誰が狼なのかは分からない。人狼の恐ろしさとは、その存在に気付いたとしても、どうする事もできないということ?僕に出来ることはないのか…。
今日、久しぶりに行商人が戻ってきた。彼はどうだろうか。
隣村でまた行方不明が出たらしい。若い2人の姉妹。森にでかけたまま帰ってこなかったそうだ。
最近、人狼たちの襲撃がどんどん大胆になってきている気がする。
昨日、そんなに深くない森で、飛び散った血だまりを見つけた。あんな喰い方をする獣は…いない。人狼を除いては。誰が襲われたのか。隣の村人か、旅人か。
今まで、ずっと、狡猾にやってきていたのに。
それは…、隠れる必要がなくなったという事を意味しているんじゃないか?
なら、今までここの村人が襲われなかったのは、身を隠す隠れ蓑のため。
で、その必要がなくなると言う事は、村人を生かしておく必要もなくなるということ…!?
マズい。この考えが正しければ、もう、時間がない。まだ僕は何も見つけていない。狼も。対抗する手段も、それを分かってくれる仲間も…。
…やった!ついに、見つけた!この村には占い師と霊能者の現存する家系がある!伝承で見た村の中に、占い師と霊能者によって、人狼を見つけ出し、滅ぼした村が書かれていた。人間たちに対抗できる方法。それは彼らだ。占い師は狼を見つけ出し、霊能者は殺した者が狼かどうかを知ることが出来る!
なら、この村も助かる可能性は高い。ただ…ただ、裏を返せば、それは、人狼に狙われやすいという事。彼らを護らなければ。でも、問題は、誰が占い師の血を、誰が霊能者の血を引き継いでいるのか分からないということ。
そして聖別された2家系の存在。其々の家系は、お互いの家系の存在を知っている。彼らは、元は同じ家系で、人狼に噛まれたとしても人狼になることはないということ。
彼らの存在は貴重だ。彼らは誰? 彼らは狼の存在に気が付いている?
人狼の噂をそれとなく、流しはじめたが…、マズい。最近、焦って調べすぎたかもしれない。その上での行動はミスだったか?何か狼達にバレるような事はしていないだろうか。何人かに、最近の様子を聞かれた。目立ちすぎたかもしれない…。彼は狼か?分からない。人狼、狡猾だ…。
今朝、ヤツらがカタリナを襲った。人狼の噂は広がった。旅人も来た。
占いは夜の儀式らしい。占い師がこの中にいるのなら、今晩には一人は占われているはずだ。が、占い師が狼を見つけたとしても、どうやってそれを伝えるんだ?今の僕と同じように、それを言い出せないって事は?方法を考えろ。何か無いか。
カタリナは狼ではない?ヨアヒムも?
…いや、そうとはいえない。僕らは二人が一緒に宿に駆け込んできたことしか知らない。
そう決め付けるのは早計だ。
人狼は…
待てよ。なら、おかしくないか?…何てことだ!人間としては…おかしい。なら、人狼、か?人狼ならそれをするメリットは?
…愉しむため?なら人狼は確実に2匹以上、いる。信じられない。普段あんなにように振舞っていて…。どうしよう。人狼のその能力は予想以上だ。いや、それは分かっていたはずだ。でも、まさか。…言うべきか。でも誰に?神父に話してみる?いや、神父も狼かもしれない。今日、来た旅人はどうだ?彼ならひょっとして…。まだ彼は起きているだろうか。でも、慎重にならなければ。慎重になりすぎると言うことはない。それに確実にそうだという確証はどこにもない。一つミスれば、全てヤツらに消されてしまう。今、こう書いていても、狼が襲ってこないか、心配で心臓がバクバクいっている。
けれど、せめて、そのなまえ―√
「…で終わってるよ。」ヨアヒムは読み終えると、全員を見渡して言った。
途中でレジーナの名前が出たとき以外、誰もが微動だにしなかった。
窓に打ち付ける風の音だけが聞こえていた。
「――で、何か?人狼を信じろってのか?」
「ディーター!」
「ハッ、何だよヨアヒム。」
しかし、ふと窓の外を見て、ディーターの動きがとまった。
思いついたように飛び出しドアを開けるディーター。振り返りもせず、闇を見つめたまま尋ねた。
「なぁ、ゲルトを最後に見たのは?」
「えぇっと…旅人さんが寝るって言ってたじゃん。その時かな。」
「いや、7時頃、一度降りてきたよ。ココアをもらいに。」とレジーナ。「いつも寝る前はココアじゃないか。」
「じゃあ、雨がいつやんだか分かるか?」
「夕方には止んで…た、ね。ディが帰ってきたそのしばらく後じゃない?」
「あぁ、そうだね。明日は晴れるかなって思ったのを覚えてる。それが何か?」
「ってコトはだ、人狼はこの宿ん中にいるってコトか?狼の足跡なんざ残ってねぇ。」
ディーターが示したその先には、何の足跡も残っていなかった。
宿屋は奇妙な沈黙に包まれていた。
「ってコトは、こん中に占い師と霊能者の子孫がいるって事だよな?」
「それと聖別された家系も。」ヨアヒムが口を挟む。
「誰だ、ソイツは?今すぐ出てきてくれよ。」
「駄目だよ、ディーター。ゲルトも言ってたじゃないのさ。彼らは切り札だってね。簡単に出てきてもらって、狼に襲われたら何の意味もないんじゃないかぃ?」とレジーナ。
「はん。そんなヤツら、オレが守ってやるよ。」
「ディーター。まだ分かってないようだから、言っておこう。」ニコラスが口をはさんだ。
「人狼達にとっては、君なんぞ何の力も持たない非力な人間なんだよ。それにもう一つ。君が人狼じゃないって保証は何処にあるんだ?」
「…何だと?」
「ちょっと止めなよっ!」
立ち上がりかけた二人をヨアヒムの声が遮る。
「熱くなりすぎだろっ?これじゃ人狼達の思う壺なんじゃあないの?少し落ち着いて、考えをまとめようよ。」
「そうだな。ヨアヒムの言う通りだ。少し落ち着こうじゃないか。そうだな。まず、全員、自己紹介をしよう。旅人さんも、それに、アルビンも、久しく村に戻ってきて、まだ全員を知らないかもしれないしな。」
ヴァルターが二人の顔を見回すと、そう言った。
「私はヴァルターという。この村の村長をしている。何であれ、人狼がいるというのは事実のようだ。村人同士の諍いで一番喜ぶのは人狼たちだろう。まず私たちは、それに乗らないところから始めようじゃないか。」
少しの沈黙の後、レジーナが続けた。
「あたしゃ、レジーナだ。もう行商人さんも旅人さんも知ってるね。ここの宿の女主人をしてる。あたしも、ヴァルターの言う通りだと思うよ。何より、諍うのを見るのは好きじゃない。」
「えっと、僕はヨアヒム。」
「…ワシの名前はモーリッツじゃ。長いこと生きてきたが、人狼というものを見たことはない。人狼というのは、真に不思議な存在じゃ。呪われた…な。ワシの小さい頃に…」
「あー…えっと、僕はオットー。パン屋です。パンも持ってきましたから、後で朝食にどうぞ。」
と黒髪の青年がそれを遮って言った。何人かが少し笑った。
少し中性的な印象を受けるものの、しかし、しっかりとした話しぶりだ。
「モーリッツさんはいつも長くなるんだから。」
と、栗色の髪の可愛らしい娘が苦笑いをしながら言った。
「えっと…私、だね。パメラって言います。」娘は少し陽気な印象を受ける。
「おりゃあ、農夫をやってる。ヤコブって言う。」
質素な格好をした男がぶっきらぼうに言った。少し無愛想な印象を受ける。
「僕はペーター。リーザの友達だよ。ね、リーザ。」
と、同じ年くらいの女の子を見る。
「うん…。」
と恥ずかしそうに返事をしたのは、後ろで髪を結んだ可愛らしい少女。
そのまま黙り込む少女を見て、ふっと笑いながら「チビさんたちに先を越されてしまいましたね。」と、紺色の正装に身を包んだ神父が言った。
「私はジムゾンと申します。この村の教会で主の務めをしております。人狼という事ですが…、きっと大丈夫ですよ。主の守りがあります。」
と、にこやかに村人を見渡した。
「オレはトーマスだ。木こりをしている。えっと、森じゃ特に何も見かけてないぞ。」
夕方、薪を持ってきた木こりが口を開いた。彼は少し不器用そうでもあるが、どこかしらの誠実な印象を受ける。
「私はアルビンと言います。行商をしています。数週間前からこの村に戻ってきています。しかし、どうも、悪いタイミングだったようですね。」
緑の丸帽子を被った、腰の低そうな人物だ。
順番を追う視線にしぶしぶ口を開くディーター。
「オレは、ディーターだ。まぁ、十分に知ってるだろうが。ならず者っていうヤツもいるがな。」
最後に旅人が口を開いた。
「オレはニコラスという。今朝、この村についた。」
「今朝…ね。カタリナを襲ったのが人狼ってんなら、誰が一番疑わしいかは分かりそうだがな。」と、呟くディーターをヨアヒムが視線で嗜める。
ならず者をチラリと見ると、旅人は続けた。
「…まぁ、多少は狼については詳しいつもりだ。襲われた娘さんが…」
「っと、カタリナがまだ言ってないね。」
と、ヨアヒムが声を上げた。
「呼びにいく?」とオットーが尋ねる。
「んー…。いや、やっぱり少し休ませてあげた方がいい…かな。あんなコトの後だし…。」
と、ちょうどその時、階段を踏み下りる音がした。
「私は大丈夫です。」
と、金髪の短い髪の娘が階段をおりてきた。
村人が口々に声をかける。
「ヨアヒム、ありがと。」
と笑いかけその隣に腰を下ろした娘は、少し疲れたような様子を除けば、とても可愛らしい顔をしている。
「カタリナ。本当に大丈夫かぃ?」
「ん、大丈夫。」
髪を払うと、心配そうな周りの顔を見渡した。
その顔を見つめていたヨアヒムは、ヴァルターとニコラスに視線を送った。
「あー…話が途中になったようだが?」と、ヴァルターが少し間をおき、言った。
「ゴメンね。つい。」
「いや、いいさ、ヨアヒム。カタリナ…というんだな。君も元気そうで良かった。」
カタリナはニコラスに少し力なくも微笑んだ。
「…と、どこまで話した?」
「それなりに人狼について知っているつもりだと言うところまでだな。」
「ほう、それはなんでまた?」とディーターがちゃかすように口をはさむ。
「…それは、オレの村が…人狼に滅ばされたからだ。」
忍耐強くニコラスが答える。ペーターとレジーナを除いて、全員が間違いなく驚いたようだった。
ニコラスの厳しい表情を見ながら、ディーターは黙りこんだ。
「だから、全員、もっと真面目に考えた方がいい。今までずっと一緒に暮らしてきた相手を、少なくとも、そう思える相手を、殺していくかもしれないんだ。」
吐き出すようにニコラスは言いきった。
コポコポとストーブにかけられたポットが音を立てている。
「――で、狼はどうやって退治するの?それはゲルトも言ってた…やつ? その、つまり、今言った…」
「あぁ、疑わしいヤツを殺していくしかない。」
「はっ。冗談じゃないぜ。こいつらを?」と、周りを見渡しパメラに目をとめるディーター。
「ディーター。アンタも、ゲルトの襲われた様を、外の様子を見たはずだ。あれは、たまたま足あとが残っていなかったんじゃない。人狼はわざと残さなかったのさ。ゲルトの様子だってそうだ。人狼達はそれぐらい、余裕を見せているのさ。」
今や少しずつ不安が村人の間に広がり始めていた。
リーザは不安そうにペーターの服を掴み、ペーターは周りを興味の目で見渡した。
むしろ、恐々周りを見渡しているのは、オットーやヨアヒムだった。
トーマスやヤコブは腕組みをしたまま動かない。
「強い人狼は昼にでもその姿を変えられると言う。が、普通、その力が強いのは、夜。特に満月の夜だ。だから、日中は殆ど普通の人間と変わらないハズだ。疑わしいヤツを殺すのは、日中だ。」
ヴァルターはパイプを銜えたまま、ジムゾンは表情に何も出さずに聞いている。
「『なりたて』の人狼は、まだそう自覚症状はないと言われる。が、既に『馴染んだ』人狼は自分が狼であることを十分に知っている。だから、その言動は狼の心理に基づくものになるハズだ。オレ達はそれを探すんだ。勿論…無実の人間を吊ることは避けられない…が。」
「でも…この中に人狼がいるなんて…信じられないわ。」パメラが言う。
「僕もだ。」とオットーが同意する。
「というか、信じたくないな。」落ち着いた声でトーマスが続ける。
ニコラスはちらりと見やると、話し続けた。
「昔の話だ。ある村に、シュトゥッベ・ペーターという男がいた。ペーターと同じだな。その村は人狼騒ぎの真っ最中で、毎日のように、残酷に喰い殺された死体が発見された。その男は実に気さくないい男で、皆に好かれていた。道を歩く時は、誰もが彼に挨拶をした。が、その男は騒ぎの張本人、人狼だったのさ。何のことはない、普段からにこやかに挨拶をし、喰いちぎられ血染めにされ殺された子供や友達について慰めていた村人達の、まさにその子供や友人を殺して喰ったのは、ソイツだったのさ。」
ゴクリと誰かが唾を呑む音が聞こえた
「特に女や子供が狙われた。その男は、村人と共に話し、談笑する中で、今晩の獲物を物色していたのさ。その男は結局、最後には狼であることがバレて殺された。が、日夜、それだけの犠牲者を出しながら、一体どれほどの間、そいつは村人に紛れて隠れていたんだと思う?」
一呼吸を置いてニコラスは言った。
「…実に25年だ。その間、誰もまさかその男が、自分の息子を、妻を、友人を喰い殺したとは思わなかった。普段にこやかに談笑するその男が、しかもその場で、ゆっくり次の犠牲者を物色していたなんてな。人狼の能力はこれだ。」
誰も何も言わなかった。全員を見渡すと、ニコラスは言った。
「誰を吊るし殺すか、そんなコトはすぐ決められるコトじゃない。それに…もう朝だ。ヤツらの時間は過ぎた。人狼もとりあえず今は大丈夫だろう。これからの対策なり、考えなり、占い先を話し合おう。今日の、夕刻の決断のために…な。」
日は既に昇り、湯が無くなったポットがカタカタと音をたてていた。
「僕は、旅人さんは信用できると思います。」
オットーがずっと考えていたように、沈黙を破った。
「僕も。」
「あたしも同感だね。」
何人かも頷いて同意を示した。
旅人は苦笑いをすると軽い溜め息をつき、言った。
「あぁ、信頼してくれるのはありがたいが、信頼しすぎては駄目だ。自分で言うのもおかしい事だが、別に人狼は、信頼されるためにこれぐらいのことは平気でやるからな。」
「それでも、旅人さんは信じられる気がするよっ。」とペーターが無邪気に言った。
「まぁ、信じてくれるのはありがたいな。人狼が本当にいると言う事など、分かっても、なかなか信じられることではないだろうからな。」
と、ニコラスはディーターを見た。
ディーターは「ふん」と視線を逸らすと、カタリナを見やった。
その視線には気付いたのか気付かなかったのか、カタリナは呟いた。
「私、言わなきゃ。」
皆がカタリナを見た。
カタリナは両手を握ったまま、しかし、今度はしっかりと目を上げて言った。
「私、言わなきゃ。」
「言うって、何を?」
「昨日、私が襲われたときのことを…よ。」
「カタリナ、大丈夫かぃ?まだ疲れも取れてないだろうし…」
「そうだ、無理をして言う必要は無いぞ?」
「いえ、私、今、言うべきだと…思う。」
一同は顔を見合わせると、静かに、再び耳を傾ける体勢になった。
レジーナやヨアヒムは心配そうに、ヴァルターは既に空のパイプをいじりながら、カタリナを見つめた。
カタリナは大きく息を吸い込むと、ゆっくりと、語り始めた。
「私、羊を追ってたの。夜の番はもうすぐ終わりだったから、少し気を楽にして、村に向かってた。周りは凄い霧で、私は羊たちが迷わないにしようと大変だった。」
「そうしたら、何となく、本当に何となくだったけれど、嫌な予感がしたの。歩くうち、その予感は強くなっていったわ。それは段々、何かが後ろから追ってくるような感覚になっていった。羊たちは何も騒いでいなかったけれど。私は羊を追うのを早めた。早足で歩くうちに、段々、汗と霧でびっしょりになってきたわ。最後には小走りになっていたと思う。何かが追って来ているのは、もう半分確信になっていた。」
「走りながら、後ろを振り返ろうとした瞬間、小石か何かに躓いたの。転びかけて手をついた瞬間、すぐ上を…さっきまで自分の頭があった所を、凄い勢いで何かが通った気がした。と同時に、私のすぐ左にいた羊が弾き飛ばされて、鳴き声をあげた。飛び散った血が頬にかかったわ。羊たちが騒ぎはじめ、私の目の前には、白い大きな獣がいた。今まで、一度も見たことのない獣だったわ。狼の顔で…二本の足で立っていた。その足の下には、引き裂きかけられ鳴き続ける羊がいた。それは「ニヤッ」と確かに笑うと、その足で羊を掻き裂いた、わ。」
カタリナは大きく息をついた。
「羊は…吹き出す血の中で、鳴き声をあげながらすぐに…動かなくなった。でも、私も動けなかった。獣は舌なめずりをしながらゆっくりと近づいてきたわ。私が動けないのを知っているかのように。そして、手を振り上げた。私はどうとは思ってなかった。きっと、現実の出来事なのかなんなのか、頭がついていっていなかったんだと思う…わ。爪が振り下ろされようとするそのとき、私は目を閉じた。ただ、終わりだと思った。けれど、目を閉じたと思った瞬間、私は何かに跳ね飛ばされた。近くの羊にぶつかって勢いよく転んだところを、それに手を掴まれて引きずられたわ。一瞬何がなんだか分からなかった。すぐにそれは私を抱きかかえると、羊の群れの中につっこんでいった。後ろから、獣の追う声と、羊たちの逃げ惑う音、鳴き声が聞こえた。霧と羊たちに隠れながら、その人は必死で走った。暫くして、後ろから音が聞こえなくなり、それの息遣いだけが聞こえるようになって暫くした後、やっと地面におろしてもらった。見上げると、それは、息が切れ切れになりながら、大きく肩で息をするヨアヒムだった。」
カタリナは、またその場にいた全員は目を上げ、ヨアヒムを見た。
視線が集まり慌てるヨアヒムをよそにカタリナは続けた。
「ヨアヒムは後ろを見て、私に振り向くと「怪我はない?」と聞いてくれた。もう村の明かりが見えていたし、霧も朝もやに変わり始めていた。ヨアヒムは、宿屋まで連れて来てくれた。」
「とても…恐かった。後で思い出すと、耐えられないぐらいに…。ベッドの中で、何度も…泣いたわ。」
ヨアヒムがオットーの視線に促されて、カタリナの背中に手を回した。
「本当は今、思い出すのも…恐かった。」
「カタリナ。大丈夫だよ。」
肩を震わせるカタリナをヨアヒムの手が優しく抱きかかえる。
「まぁ、でも、カタリナが無事で本当によかったな。」
「本当じゃなぁ…。」
「カタリナさん、よろしければ、先ほどのお薬、また出しておきますよ?なに、御代はいりません。」
「カタリナ、大丈夫よ。貴女は本当に頑張ったわ。」
村人たちが次々に声をかける。
ヨアヒムも頷いた。
「カタリナ。頑張ったぞ。そして、ヨアヒム。よくやった。」とヴァルターが労った。
「へへ。」
皆が二人に労いの声をかけた。――と
ぐぅ、と大きな腹の音がした。
後ろには赤面するペーターがいた。
「ち、ちがっ…ぅ。」
誰かがふっと笑い出すと、
「ちょ、ちょっと、腹減っただけだろっ?もぅ。」
笑いは全員に広がり、カタリナも笑った。
「それじゃあ、まぁ、そろそろ朝ご飯にしようか。」
レジーナが笑いながら、立ち上がった。
「えっと、15…人だね。パメラ、手伝ってくれるかぃ?」
「えぇ、勿論。あ、カタリナは休んでてよ。」
立ち上がりかけたカタリナにパメラが声をかける。
「ありがとう、パメラ。」
皆が揃って朝食を食べる恐らく最後の時ということを、誰もが無意識に感じながらも、それぞれが朝食の準備を進める気持ちの良い騒がしさが宿を包んだ。誰かがバルコニーに面するガラスの戸を開くと、ひんやりとした空気が部屋の中に入ってくる。
食卓の準備が終わり、其々が朝食ができるのを待つ間、ヨアヒムはバルコニーに出た。
外を見渡し深呼吸をすると、大きく伸びををする。
「…ヨアヒム。」
後ろから声をかけるカタリナに、伸びをしたままヨアヒムは振り返る。
「うん?」
「昨日は…本当に、ありがとう…。」
「貴方が来てくれなかったら、私は殺されてた。」
「んあ、いいよいいよー。カタリナが無事で、ホントに良かった。」
照れくさそうに鼻を擦るヨアヒムを見て、カタリナも、ヨアヒムも笑った。
ひんやりとした風が鳥のさえずりと共に吹き抜け、木漏れ日がバルコニーの2人へ差し込んだ。
カタリナの顔がヨアヒムの頬と重なった。
「っと、すげぇ豪華な朝食だな。毒入りって事はねぇのか?」
「ディーター!そんなに食べたくないんなら、食べるんじゃないよ!」レジーナが一喝する。
「っと、冗談だ。レジーナ。」
慌てて訂正すると、ソーセージを摘むと、匂いをかいでから、口に銜えた。
朝食にしてはかなり豪華とも言える食卓を前に全員が席についた。
ヴァルターが席を立ち、杯を掲げて言った。
「人狼の存在に一早く気がつき、村を案じ、一人戦っていた、そして…人狼の歯牙にかかり死んでいった、ゲルトに。」
全員がそれに習う。「ゲルトに。」
「アーメン。」ジムゾンと、何人かが呟いた。
村の全員が集まって食事をするなど、普段からもあまり無い事ではあったが、そこにアルビンとニコラスが加わり、さらに賑やかな食卓となった。
「ニコラスさん。」
「何か旅の不思議な話を聞かせてよ。ね、リーザも聞きたいよね?」
リーザが小さく頷いた。「…うん。」
「コイツがねぇ?」とディーターが信じられないといったように頭を振る。
「ディーター。ヨアヒムだってやる時はやるんだよ。」とレジーナが嗜めた。
「へっへー。」
「村長さん。なかなか素敵な商品ですよ。是非一度考えてみてください。あ、それ、とっていただけます?」
「あぁあぁ、考えておこう。それでトーマス。さっきの話だが―」
「占い師が人狼を見つけ出すその力を持っているというなら、『カタリナが人狼に襲われた』時点で、誰かを占っている可能性は高い。」
「占い師が占ったヤツがいて、そしてソイツが狼だったなら、すぐ名乗り出てもらうか?」
「オットーにーちゃん、それ取ってー。…ありがとうー。リーザも使う?」
「主は言われます。『隠れているもので、あらわにならぬものはなく、秘密にされているもので、知られず、また現れないものはありません。』と。またさらに…」
「でもさ、ジムゾンさん。それって…」
「―で、昨日占ったハズのヤツが…出てきてないんおは…ふぉいつが狼で…なかったって…ことはよな?」
「あぁ、そうじゃないかなぁ。多分ね。ただ、誰が占われたかは分からないけどね。」
「ディーター、食べながら話すのは行儀が悪いわよ?」
「あ…はぐ、悪い…悪い、パメラ。」
「人狼避けに効果があると言われるお守りです。一つしかございませんが…いかがですか?」
「モーリッツさん、今日は静かじゃないか。どうしたの?」
「ホントだね。いつもはあんなにとりとm…っと、あんなに色々話してるのにさ。」
「うむ…。」
「でも、狼達は食事に本当に何か入れたりしないの?」
「しないだろうな。」
「何で?ニコラスさん。」とにんじんを脇によけながら、訪ねるペーター。
「アイツらは薬で抵抗できない人間を嬲るより、精一杯「無駄」な抵抗させる方を好むからな。」
「ペーター。ちゃんとそれも残さず食べな!リーザを見てごらん。…あぁ、悪い、ヴァルター。それで?」
ペーターは「べぇ」と舌を出すと、思い切って、小さいのを一つ口に放り込んだ。
「皆、ちょっと聞いてくれ。」
ひとしきり食事が落ち着いてきたところを見計らい、ヴァルターが立ち上がり、言った。
「本当に楽しい食事だった。出来れば、これが最後とは思いたくない。」
「今、少し話して確認していたことだが、昨夜、占い師が誰を占ったかは分からないが、少なくとも今日占われた者は狼ではなかったようだ。誰かは分からないが。それで間違いないな?」
「で、だ。皆、狼を探すために占い先を挙げなければならない。それと残念ながら、…吊り先を、だな。」
「ねぇ、誰かまとめ役をするべきじゃないかな?」とオットーが声をあげた。
「村長さんが良いんじゃないの?」パメラ。
「それでも良いけれど…。けど…」
「狼の可能性があるから。な。」と、トーマス。
「ねぇ、思ったんだけれど、占い師や霊能者はいつまで隠れててもらうの?」
「狼の襲撃を守る方法はないのかな?」
矢継ぎ早の質問に、村人達の心の内の不安が表れているようだった。
ヴァルターは少し眼をあげ考えた後、ニコラスを振り返った。
「…狼の襲撃を守るのは、普通の人間には不可能だ。人狼の力にかかれば、その襲撃を避け得る人間はいないと言っておく。」ヴァルターの視線にニコラスは応えた。
幾つかの嘆息の中、ヨアヒムが言った。
「ちょっと待って。『普通の』人間?って事は…」
「あぁ、襲撃を守れるかもしれない人間はいる。どこまで守れるかは知らないが。」
「が、そいつも所詮は人間だ。自分が狙われたら、間違いなく殺されるだろう。」
「まぁ、コイツに関しての質問は以上だ。いるかもしれないし、いないかもしれない。いても、守れるかもしれないが、守れないかもしれない。いるかもしれないと狼に思わせれば、それでイイさ。」
また質問しようとした村人達に向かって、ニコラスは言い切った。
「今日はまだ一日ある。昼間は人狼達の力も制限されるハズだ。力をもった者達にいつ名乗りを挙げてもらうか、誰が意見をまとめていくべきか、誰を占うか、そして、誰を吊るすかを考えてきてほしい。…何か質問は?」
「えっと、力を持った人たちってのは、占い師とか…そういう人たちのコトですよね? その名乗りのタイミングも決める必要はあるんでしょうか?」とパメラが聞いた。
「あぁ、必要だ。でないと、いつの間にか喰われちまってた、なんて事になりかねないからな。…他に?」
「…無いようだな。繰り返しになるが、人狼の能力を侮るなよ。平気で隣に座ってるヤツが狼かもしれないんだ。注意深くあるんだ。」
ニコラスは、不安顔の一同を見渡した。
「さて…ご馳走様だな、レジーナ。私はちょっと仕事に戻らなければ。宿題は了解したよ。」
「おぃおぃ、村長さんよ。こんな時に仕事も何もないだろ?」
ディーターが呆れた様に驚く。
「ディーター。村長というのには、お前が思っているより、多くの仕事があるんだよ。」
「では、また夜にな。」
ヴァルターは一同を見渡すと、部屋を出て行った。
「と、じゃあ、僕も店に戻りますね。」とオットーが立ち上がる。
「では、オレも仕事を始めよう。レジーナ、ごちそうさまだな。」とトーマス。
立ち上がる何人かに頷くと、レジーナも言った。
「さて、片付けようじゃないか。パメラ、ペーター、リーザ、手伝ってくれるかぃ?」
オットーは、もう暫くで「12」を指そうとする時計を見やり、読んでいた本を置くと、ミトンを手に付けた。
「さて…。」と、注意深く石釜の戸を開けた。
朝の集まりがあったせいで、普段よりずっと遅い焼き上がりだ。
オットーは焼きあがったパンを載せた盆を並び終えると、額の汗を拭き、窓の外をみた。
晴れているものの、どこかしら暗さを感じる。
「届けようかな…。」オットーは一人ごちた。
今日は何故か、誰も店には来ない気がしたのだ。
「パメラ。悪いけど、これ、上に運んでくれるかぃ?ちょっと、カタリナを見てこようと思って。」
「えぇ、分かった。…大分、大きいわね。あ、気を付けてね、レジーナさん。」
離れた席でディーターが新聞の影からその様子を見ている。
荷物を何度か上げよう試みるも、ついに諦めたらしいパメラが声を掛けた。
「ディーター。ゴメン、これ、運んでくれない?」
「ん? おぅ、イイぜー。」
さも今気付いたかのように立ち上がると、パメラの傍に歩み寄った。
「これだな。」
と、パメラの顔を覗きこみ、一気に荷物を運び上げる。
「ねぇ、ディーター。狼とか、占い師とか霊能者とか…誰なんだろうね?」
「さぁな。知らないな。っと、ここでイイか?」
「あ、うん。ありがとー。」
「ソイツら、バレたらマズいんだろ? なぁ、パメラ。それよりも、ちょっと茶でも飲まねぇか?」
「あら残念。ちょっとまだやる事があるの。」
振り向こうとするパメラを、ディーターの手がさえぎる。
「なぁ、少しだけだって。な?」
パメラは溜め息をつくと、苦笑しながら振り返った。
「…しょうがないわね。少しだけよ?」
「ねぇ、リーザ。誰が人狼だと思うー?」
宿の前の柵に腰掛け、足を揺らしながらペーターが尋ねた。
「…分かんない。」
「そっかぁ。」
「ペーター、は?」
リーザは控えめに尋ね返した。
「僕も分かんないなー。ヤコブさんなんかはどうだろ?いつも、結構しゃべらないしさ。」
と、自分の揺れる足を見ながら、ペーターは答えた。
「ヤコブさん、優しい、よ?」
「ふーん。」
会話が途切れ、2人はうつむいた。
「ペーターは」
と、リーザが口をあけた。
「さっきから、何を考えてる、の?」
ペーターはニッと笑って、言った。
「ね、リーザ。狼の姿に変わるって、ちょっとだけカッコよくない?」
ヤコブは冬前に撒いた麦をザッと見回ると、畑脇に腰を下ろした。
自分の手の、干草のフォークを見ながら、ゲルトの手記のことを思い出していた。
「腹が減ったな…。」ヤコブは呟いた。
―…ン
コ―…ン
森の中に、トーマスの斧の音が響く
ふと、トーマスは手を休めた。後ろにオットーがパンの袋を抱えて立っているのに気がついたのだ。
「オットーじゃないか。どうしたんだ、こんなところまで。」
「いや、今日はパン屋に誰も来そうに無いし、ちょっとパンを配って回ってるんだ。」
「…そうか。」
「ねぇ、トーマス。一人で森で仕事をしてて恐くないの?ゲルトの日記にも、狼は森で…」
「オットー。木こりが森以外で何処で仕事をするんだ?」
「…そうだけどね。」
トーマスにパンを渡しながら、オットーは言った。
「ねぇ、トーマス。誰が人狼なんだろう?」
「さぁ。分からないな。」
「…トーマス、誰を吊りに挙げるか…決めた?」
トーマスはふりむくと、力任せに切りかけの大木に斧を叩き付けた。
「オットー。危ないぞ。」
ミシミシと大きな音をたて、木が倒れていく。
慌ててオットーはトーマスの傍に移動する。
「オットー。パンをありがとうよ。後で頂こう。オレはまだ仕事をするよ。」
「あ…うん。分かった。仕事頑張ってね。」
トーマスは後ろを向いたまま、手を振って返事をした。
「カタリナ、大丈夫?」
ヨアヒムはカタリナの休むベッドに腰掛け、話しかけていた。
「うん、大丈夫。」
「ねぇ、ヨアヒム。誰が狼なんだろう?」
「カタリナ、まだ考えなくていいよ。今のカタリナは休む方が大事だろ?」
「ヨアヒム、私はもう大丈夫。ね、これって大事なことだと思う。貴方が私を心配してくれるのは本当に嬉しいわ。貴方は本当に優しい。でも、考えないと。襲われたからこそ…ね?」
ヨアヒムは溜め息をついた。
「…分かった、カタリナ。でも、まだ熱はあるだろ?せめて、一眠りしてから、さ。」
「もう熱なんて…」
と言いかけるカタリナの額に、ヨアヒムは額を合わせた。
「…やっぱり、まだ―」
―コンコン
ノックの音に、慌てて振り返る二人。
「ど、どうぞ。」
同時に答えるヨアヒムとカタリナ。
「おや、邪魔しちまったかぃ?」
ドアを開けて入ってくるレジーナ。
「いやっ、いえ…全然。」
「カタリナ、熱計りな。ほら。」
レジーナは体温計を差し出した。
それを受け取り、目盛りを見てから、口に入れるカタリナ。
レジーナが水差しを替えるのを見ながら、ヨアヒムは居心地が悪そうにしている。
「おや、やっぱり、まだ少し熱があるみたいだねぇ。」
「では、これなどはいかがです?調子が悪いとき、寒い時などに、寝る前にお飲みくだされば…」
「うぅむ。」
アルビンは溜め息をつき、箱を置いた。
「モーリッツさん。何をお考えなのです?失礼ながら、こんな仕事をしていると、気になるものでして。邪推でしたら申し訳ありませんが、昨日までのあなたと、今日のあなたはどこかしら印象が違ってみえます。もし、よろしければ、何をお考えなのか、お話いただけませんか?」
「…アルビン。悪いが、ワシが考えている事をお前さんに話してどうなる?お前さんが人間だったとしても、関係ない話じゃ。それに…お前さんは狼かもしれん。悪く思わんでくれ。」
「そうです、か。お役に立てませんで。まぁ、でも、もしお話いただけるなら、いつでもおっしゃってくださいよ。」
「うむ。ありがとうよ、アルビン。そうじゃ、それは貰っておこうかの。」
と、立ち上がりかけるアルビンに、モーリッツは先ほどの小さな箱を指差した。
「あぁ、これですね。」
「いくらじゃ?」
「あー…っと、これのお代はいいですよ。今回だけですが。」
「アルビン。お前は商人としてはまだまだじゃな。そう安売りをするものではない。ちゃんと貰いなさい。」
と、モーリッツはアルビンの手に古びた数枚のお札を押し込んだ。
「あ、オットーにぃちゃんだ。」
ペーターが柵を飛び降り、駆け寄っていく。
「ねぇねぇ、それ、何?」
勢い込んで、興味深々にペーターが尋ねる。
「何だと思う?」
オットーはペーターの頭を笑いながら撫でる。
「リーザ、こんにちは。」
「…こんにち、は。」
「あっ!パンだっ!ねぇねぇ、クリームパンはある?」
袋の匂いを嗅ぎ、目を輝かせる。
「クリームパンはないなぁ。クイニ・アマンはあるよ。」
「クイニ・アマンってどんなの?」
「えーっと、甘い菓子パンだよ。二人ともお腹は減ってるかぃ?」
「ペッコペコだよ!ね、リーザ?」
「…う、う…ん。」
「そうか、じゃあ、中に入ろう。」
ギィと宿の戸を押して、部屋の中に入る。
奥にいたディーターとパメラが振り返った。
「やぁ、パメラ、ディーター。」
「あら、オットー。こんにちは。」
「パンを届けにきたんだ。あー…っと、ディーターも食べるだろ?」
「あぁ。」
「えっと、他の人は何処にいるか知ってる?」
もう袋を開け始めているペーターを片目に、オットーは尋ねる。
「さっき、レジーナさんがカタリナを見にいくって出て行ったわよ?」
「多分…となり…だ…よ。別のたてもの…。ほら、長く泊まるひと用の…さ…。」
ペーターがパンを頬張りながら言う。
「あぁ、ありがとうペーター。食べてるとこすまないな。」
とオットーは笑いながら、ペーターの頭を撫でた。
「リーザも食べな。」
パンを食べていいかどうか躊躇っているように見えるリーザに、オットーは声をかけた。
「オットー。レジーナもすぐ戻ってくると思うし、貴方がパンを届けてくれたの、伝えようか?」
「…あー、そう、だね。お願いしようかな。うん、」
「カタリナとヨアヒムは狼ではないでしょう。」
「いや…。狂言って可能性もない訳じゃないだろう?旅人の話じゃあ、平気で人を騙すらしいしな。」
「私は、疑いは…何も生み出さないと思います、村長。」
「では、何をもって人狼を見つけ出すと言うんだ?」
ジムゾンは答えなかった。
「勿論、お前の神の務めは知っている。しかし、人狼騒ぎが起きた以上、人を疑い、吊っていかなければならない。お前だけ逃れることは出来ないし、許されないのは、はっきりと言っておくぞ。」
「…しかし―」
「ジムゾン。これまでだ。それ以上まだ言うなら、私はお前を疑わざるを得ない。」
「人にとって、疑うより、信じることの方がどれだけ幸いか…。」ジムゾンは帰りゆくヴァルターの姿を窓から見ながら、笑顔とも哀れみともつかぬ不思議な表情で呟いた。
オットーが種無しパンを手に、教会の戸から顔を覗かせていた。
「…神父さん、いますかー?」
教会堂の中はひんやりとして、小さな天窓から差し込む光が床を照らしていた。
小さな村のそう大きくはない教会であったけれど、よく手が行き届いていた。
「これ、今度の聖餐式のパンです。」
「あぁ、オットーさん、ありがとうございます。」
ジムゾンはそれを両手で大切に受け取った。
「今度の日曜日は来られますか?」
「あー…。来たいと思います…来れたら良いですよ、ね。」
言いよどむ様子に、ジムゾンは察したようにオットーの肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ。オットーさん。主は全てのことをご存知です。きっと救いの道を備えてくださいますよ。」
「でも、今日の夕方には…誰かを殺すために…吊りに挙げないといけないんですよ? 神父さんは…」
言いかけてオットーは止めた。
「オットーさん。祈っていかれてはどうですか?」
ジムゾンは答えない代わりにそう言うと、不思議な表情で微笑むと、教会堂の奥に歩いていった。
「ただいま。パメラ、ありがとうね。重たくなかったかぃ?」
レジーナは戻りざま、手早く荷物を片付けながら声を掛けた。
「あ、お帰りなさい、レジーナさん。えぇ大丈夫、ディーターが手伝ってくれたわ。カタリナの様子はどうだった?」
「あぁ、少し熱があるのを除けば元気そうだよ。ヨアヒムも付いてるしね。」
「あ…。そうね。大丈夫よね。」
「あ、さっきオットーが来て、これ、どうぞだって。」
パメラは机の上に残ったパンを指差した。
「ペーターとリーザはもう食べたし、私たちも少しだけ頂いたわ。」
「そうかぃ。分かった。留守番ありがとうねぇ。ディーター。あんたもありがとう。」
ディーターは後ろ向きのまま、手を挙げて応えた。
「オットーにもお礼を言わなければね。」
「…さて。どうしようかね。時間もないし、考えなければ、ね。」
レジーナが一人呟き、カウンターの奥に向かって行くと、ディーターがふりかえり、パメラを見た。
モーリッツは整えられた自分の部屋を見渡していた。
モーリッツは机の上の写真立てを手に取った。金色の髪の少年。
モーリッツは深い嘆息をつくと、椅子に身を沈ませ、こめかみに指をあてた。
深い沈黙が部屋を支配していた。
ヤコブはオットーの店を覗いていた。
「いないな…。」
戸を押すと、静かに音が響いた。
「…オットー。いないのか?」
店の奥に向かって声をかけるが、返事は無い。
パンも並んでいない。ふとゲルトのことが頭に浮かぶ。
「まさか…?」
ヤコブはそっと厨房の戸を開けた。
厨房はまだ心なしか温かみが残っていた。が、誰もいない。
釜はまだ温かい。
パンも並べずにどこに行ったのか。
ヤコブは訝しげに部屋を見渡した。
と、ふと、釜の傍の本に目が止まる。
「『月と狼憑き』…?」
ヤコブはそれを手に取った。かなりシンプルな作りの本だ。
ひっくり返し、年月を見る。
嫌な予感が頭をよぎった。
―パタ
と、外の足音が聞こえた。
ヤコブは慌てて本を置くと、厨房を出た。
「あれ、ヤコブ。」
キィとオットーが戸を開けて入ってきた。
オットーは自分が厨房から出てきたのに気がついただろうか。
内心驚きながらも、ヤコブは冷静に返事をした。
「…オットー。姿が見えないから、ちょっと…覗いていたんだ。」
「ん?あぁ、そうだったんだ。」
「店に戻ると言っていたと思ったからな。…何処にいってたんだ?」
「あぁ、ちょっと近くを、ね。えっと、パンを買いに来たんだった?ゴメン、今日はパンはないんだ。」
「…いや、いい。」
旅人の言葉が頭に響く。
―人狼の能力を侮るな―
「あれ?」
ヤコブはつい見た本のことを考えながら、オットーをみた。
「どうしたの、ヤコブ?」
普段と変わらないオットー。
「いや、何でもない。またな。」
ヤコブは心に芽生え始めた疑惑を打ち消そうとしながら、急いで店を出た。
出ていくヤコブを、オットーがじっと見つめていた。
トーマスは切り倒した大木に、一人腰掛けていた。
忙しく働く中では聞こえない森の音が、休息の中で、普段よりよく聞こえる気がした。
こんな時に限って時間がたつのが早い、トーマスは一人呟いた。
カタリナは寝返りをうった。
ふと目を開けると、本を読むヨアヒムが見えた。
「…ヨアヒム。」
「あ、おはよう、カタリナ。調子はどう?」
「もう大丈夫よ。ありがとう。」
ヨアヒムはカタリナの額に手を当てると、頷いた。
「ねぇ、ヨアヒム。夢見心地にだったけど、考えたことがあるの。」
傾き始めた日の光が、まっすぐ窓を通して差し込んでいた。
モーリッツは立ち上がると、忘れたものを見つけ出そうとするかのように、部屋を見渡した。
そして、もう一度、写真を手に取ると、顔をあげた。
日が山の端にかかっていた。
村全体が赤く染まっている。
人の思いとは別に、日は沈みゆき、人の時間のひとときの終わりを知らせる
見えるものが見えなくなり、分からないものが分かるようになる
まだ明るさの残る中、集会場に灯がともった。
集会場はぎこちない空気に満ちていた。
「全員もう帰ってきたのか?」ニコラスがヴァルターに尋ねる。
「いや、まだだ。トーマスが帰ってきていない。」少し不安げに髭をいじりながら、ヴァルターが答える。
ニコラスは無言で周りを見渡した。
ヤコブは机の端に座り、ディーター達と話すオットーを見つめている。
深い顔で考え込むモーリッツに、話しかけるジムゾン。
アルビンは落ち着かなく自分の荷物をいじっている。
言葉少なにペーターを抱いているパメラと、ヨアヒム、カタリナ。傍にリーザ。
「トーマスが帰ってきていないみたいだが、始めよう。」
暮れゆく空を映す窓を背に、ニコラスが声を上げた。
「―じゃ、占い師・霊能者ともに、明日名乗り出るってので、構わないな?」
全員、顔を見合わせながら頷いた。外は既に日が暮れていた。
そして、沈黙が訪れる。
「そして、占い先と…吊り先だな。」
ヴァルターが重苦しく、口火を切った。
「それぞれの希望はあるか?」
誰も答えない沈黙が続いた。
ニコラスが口を開きかけた瞬間、ヤコブがその沈黙を破った。
「オットー。あの本は何なんだ?」
「本?何のことだい?」驚いた皆の視線がヤコブに集まる。
「釜の傍にあった、あの『月と狼憑き』って本だ。」
ヤコブには、オットーの顔がわずかに動揺したように見えた。
「月と狼憑き?」
パメラや何人かが身を乗り出す。
「ああ。今日、オットーの店で見たんだ。」
「し、知らないな、ぞんな本。」
ヤコブの目が睨む。「嘘をつくなよ…!」ヤコブが立ち上がった。
「嘘だって?じゃあ聞くけれど、大体、釜の傍にあったって、なんでそんなところに入ってたんだ?」オットーもいきりたち、椅子を蹴った。
―「遅くなってすまない。ちょっと手間取ってな。」
薪を床に下ろしたトーマスは異様な雰囲気に気がついた。
オットーとヤコブが立ち上がり、リーザが泣いている。
「自分は店にいなかったじゃないか!店に戻るといっていたのに!店にいなかったから、中に入ってみたんだ!」
「オットーは宿にパンを届けてたのよ。」とパメラ。
「嘘だ、そんなのは…」
「嘘じゃない。」
「よく分からんが、とりあえず二人とも落ち着け。ヤコブ、オットーがパンを届けてくれたってのは本当だ。森までわざわざ届けてくれた。」
と、他の荷物を下ろしながら、トーマスは落ち着いて言った。
「じゃあ、何で俺には…。あの本には…」ヤコブが呟く。
「皆。嘘だと思うなら、店に見にいけばいい。大体、何でそんな本なんか。だったら、証拠にここに持ってくればいいじゃないか。」オットーがヤコブに食ってかかる。
「…確かにな。」
ディーターが口を挟んだ。
「それは言えてるぜ。オットーの言う通りだ。」
「そんなに怪しいという証拠なら、持ってくればいい。でないのに、そんな話を振るってのは変だよなあ?」と、ディーターがあからさまな疑いの声をあげる。
「じゃあひょっとして、ヤコブさんが?」
ペーターがディーターの顔を見ながら尋ねた。
「違う、俺は狼なんかじゃない!」ヤコブが叫ぶ。
「ねえ、でも狼がわざわざそんな目立つように、自分から疑いをふるのかなあ?」
ヨアヒムが静かに疑問を投げかけた。
「それもそうですね。」アルビンがわざとらしく同意し、ヨアヒムと共に、ディーターを見る。
「ハッ、分かんねえぞ。狼なら何でもやるんだろ?」
ディーターがニコラスに振り向きながら、問いかける。
ニコラスは黙ってディーターを見返しただけだった。
「ま、どちらにしろ、そんな本があるとしても、狼かどうかは分からないと思うよ?」とヨアヒム。
「しかし。」と、ジムゾンが下を向きながら言った。
「持っていたとすれば、ですが、疑われるような書物をもつのは決して褒められたことではありませんね。魔女狩りと同じことですが。」
普段の比較的温厚なジムゾンとは違う、静かな、そして厳しい声だった。
「でも…結局、どっちでも分からないって事ね。あんまり意味は無かったかもしれないわね。」
「そうかぁ、パメラ?普段と、大分違う様子が色々見れてよ?オレは興味深かったし、何なりの収穫はあったと思うぜ。」
ディーターはにやにや笑いながら、ヤコブを見た。
「じゃあ、結局どうするんだ。俺は本当に見たんだ。オットーは嘘をついている。」
ヤコブはイラついたようにディーターを見る。
再び沈黙が訪れる。
「それでは、今日はオットーを占いなさい。」
ずっと無言で聞いていたモーリッツが大きな息を吐くと、言った。
「そして、ワシが吊られよう。」
静かな、しかしはっきりとしたその声に全員が振り向いた。
「はぁ?じーさん、アンタ、何言って…」
「モーリッツさん、何を…」
口々に声が上がる。
ニコラスは深くかぶった帽子の間から、じっとその様子を眺めた。
「ワシは占い師でも霊能者でも、ましてや、聖別された家系の出でもない。」
「おぃおぃ、ちょ、ちょ、何言い出してんだ?」
同意を求めるように、周りを見渡すディーター。
「ワシはこの中に人狼がおるなどと思いたくは無い。しかし、残念ながら、おるのは間違い無いのかも、しれん。いや、恐らくおるじゃろう。この中に…長く共に過ごした者たちの中にだ。」
一息をついてモーリッツが言う。
「ワシは恐らく、その現実に耐えられないのじゃよ。」
「でも、だからって、爺さんが…」ヨアヒムが口を挟む。
「ワシはゲルトを我が子のように可愛がってきた。わしは、あの子がずっと悩んでいるのは知っておった。しかし、その重大さ、深さには何も気付かなかったのじゃよ。わしはあの子の悩みを分かってやれんかった。」
というと、モーリッツは周りを見渡した。誰も何も言わない。
「だが、皆。恐れてはいけない。人狼がここに現れたという時点で、村は無傷では済まないのだよ。彼らは呪われた存在だ。その非が彼らにあるかないかは別としてのう。」
「ワシの幼い頃、人狼騒ぎがあった。ワシは結局、人狼の姿は見んかった。騒ぎの中で、毎日、疑わしいものを一人ずつ吊っていった。何人もの人が吊られた。無実の者も吊られたかもしれん。いや、きっと吊られたじゃろう。結果、人狼の被害はなくなった。人狼は恐らく、恐らくじゃが、撃退できたのじゃ。村人の中に疑心暗鬼を残してな。人狼はいなくなった。じゃが、村は疑心暗鬼から寂れ、結局、無くなった。」
息を呑む音が聞こえた。
「良いか、皆の者」
今までに聞いたことの無いような、はっきりとした声だった。
「人狼が出たのは事実じゃ。疑いあわねばならん。それは間違いのない事実じゃ。じゃが、信じあうことの大切さも忘れてはいかん。今までの諍いなど些細な事じゃ。大切なものを見失ってはならん。」
「けど、皆、爺さんが人狼とは…」
「今のワシの発言で、ワシは人間ではないかと思ったものはおるじゃろう。確かにワシは人間じゃ。しかし、本物の人狼も、このように演技してみせるじゃろう。油断してはならんぞ。」
「でも…、でも爺さん。」
ヨアヒムが救いを求めるようにニコラスをみた。
「確かにじいさんは人間には見えるな。が、吊らなければ、人狼の演技だった疑いは最後まで残るだろう。人狼かどうかを確実に判断するのには、吊ってみるしか、ない。」ニコラスは帽子に手を伸ばすと、さらに深くかぶる。
村人達は顔を見合わせた。
モーリッツはニコラスを見ると、静かに言った。
「皆の者。わしは吊ってくれてもいいといっておるのではない。吊ってほしい、といっておるのじゃ。」
「…そんな。絶っ対に、嫌だっ。」
ヨアヒムが搾り出すように叫ぶ。
モーリッツは少し困ったように、しかし、厳しく尋ねた。
「では、ヨアヒムは他に吊りたいものがいるのかの?」
黙り込むヨアヒムを見て、モーリッツは言った。
「分かったじゃろう。人狼と戦うのなら、心を決めなければならんのじゃ。」
その声は誰もが反論ができない響きをもっていた。
「旅の人。あんたが村を導いてくれるのを期待しておるぞ。」
モーリッツをじっと見つめていたニコラスは、再び、帽子の間からモーリッツを見やると、頷いた。
「疑心暗鬼になるじゃろう。じゃが、信じるということを忘れてはいかんぞ。」
三度の沈黙の後、ニコラスがあとを引き取った。
「今日、占い師はオットーを占う。占い師と霊能者は明日、結果とともに名乗り出てくれ。そして、吊りは…爺さんだ。」
「さて。リーザ、ペーターはもう寝なさい。パメラ、カタリナ。2人を見てやってくれるかの。」
モーリッツは、静かに笑いながら全員を見渡した。
パメラは泣きじゃくるリーザを抱え、カタリナを見た。ペーターは自分の服を掴んだまま、じっと見ていた。
「これでじーさんが人狼だったら―」
「ディーター、止めなさい。」
ジムゾンが思わぬ大きな声を出した。
「モーリッツさん、ごめんなさい。私は神に仕える人間です。しかし、私は弱い人間です。あなたを吊りに反対できません。」
消え入るようなジムゾンの声に、モーリッツは静かにいった。
「のう、ジムゾン。神はわしのことはどう思われるかのう?」
「…喜ばれていますよ、モーリッツさん。…もう一度、ごめんなさい。しかし、私は神の務めを果たさなければ…。」
ジムゾンはモーリッツの手を握ると、言いきった。
モーリッツは何処か安心したような表情をした。
「…爺さん。」
「…なんか、苦しい、な。ちくしょう。」
「モーリッツ。」
何とも言いがたい表情でで、口々にモーリッツに声をかける。
「ゲルトに会えればいいのう。」
モーリッツは一度だけ振りかえりパメラたちを見、微笑むと、男たちと共にゆっくりと部屋の外に…出ていった。
ペーターは窓から差し込む月の光に目を覚ました。
部屋の反対側で、泣き疲れてぐっすりと眠るリーザを眺める。
一度は布団を被るものの、モーリッツの言葉が耳に残って、落ち着かない。
時計が針を刻む音が聞こえる他は、リーザの寝息しか聞こえなかった。
と、階下でドアの閉まる微かな音が聞こえた。ペーターは飛び起き、部屋を見渡した。
起き上がり窓から下を見下ろすと、回りに注意を払い、ひどく用心深く出てくる人影が見えた。
「…誰だろう?」
人影は荷物を背負い、月明かりを避けて木陰を縫って歩き始める。
ペーターは振り返ると、リーザを見た。相変わらず、静かな寝息をたてている。
危ない事は分かっている。だが、ついに、湧き上がる興味を押さえることはできなかった。
ペーターは靴を履き、戸を開けると、急いで、しかし、注意深く階段を下りた。
入り口を通して、茂みの向こうに消える人影が見えた。
そっと宿の戸を開け、足音を忍ばせ、後ろを追う。
月明かりに人物の姿が露わになる。
「アルビンさん?」
宿から離れると、月明かりの下、道にそって歩き始めた。
ペーターはまばらにある両脇の茂みに身を隠しながらついていく。
アルビンは真っ直ぐに前を向き、足早に歩を進めている。
「こんな夜に、どこへ出かけるんだろ?」
と、そのとき
―ガシャ…ッ
突然、近くで聞こえた音に、ペーターは慌てて身を屈めた。
気付かれなかったかな?いや、それよりも何の音だろう?
茂みの中から覗くと、首を傾げ、再び歩き始める商人の姿が見えた。
アルビンさんにははっきりと聞こえなかったみたいだ。
追いかけようとして、ふと思い直す。
心臓の音が高まり始める。
何の音だろう?こんな夜中に、あんな…。
アルビンの姿が小道の向こうに消えようとしている。
音のした方を見、また商人を振り返ると、意を決し、音のした方に向き直った。
茂みの向こうに教会が見える。
教会…ジムゾン先生。ペーターは呟く。
小道の向こうをもう一度見やると、ペーターは身を屈めながら、窓の傍に近寄り、耳を済ませた。
何かを話す声が聞こえる。
心臓の音が一段高鳴る。どうしよう。帰ってしまおうか。
リーザの顔が浮かぶ。
悩むものの、またしても、好奇心に勝つことはできなかった。
ペーターは、細心の注意を払いながら、窓から中を―覗き込んだ。
狼は、胸に足をかけ、体重を乗せていく。
「ぐ…ぎゃ、ぁぁ、あ…」
骨がミシミシ音をたてる。
狼は、軽く足をかけているだけのようなのに、微動だにできない。
これが、人狼…
身じろぎも許されない。息が出来ない。
胸にかけられた足を両手で必死で押し戻そうとするので精一杯だ。
狼は少しずつ力を加えていき、骨がメキメキと音をたてる。
「あぁ、イイ音だ…。」
闇の中で愉しそうに白い牙が笑っているのが見える。
肺の中の空気が押し出され、息が出来ない。
「ぅげ…ぐ、ぅ…ぁ…っ、ぁ…」
「イイ声だなぁ?」
闇の中で、狼はその音、声に聞き惚れる。嬉しそうな声がきこえる。
−ミキッミキッ
今にも折れそうな音がする
「なーぁ、ジムゾン。オマエの知ってることを教えろよ。神の努め、とやらをよ?」
「ぅ…ぐ、ぁ…ゎ、私が知っ、ているこ、と?」
狼の足が僅かに緩む。口は相変わらず笑っているものの、目は冷たく見下ろしている。
「ちゃんと言えるなら、少しはラクになるぜ?」
「く、くっ。あははっ、知っていたとしても、言うはずがないでしょうっ?」
−ボギッ
狼は事も無げに肋骨を踏み折った。「ぎゃッ!」
「ぇ…ぁ、が、はっ、ぅ…く」
「っと、脆いなぁ?」
狼が歌うように、言い放った。
「ぅ、あっ…こ、殺すなら、さっ、さと…殺せ、ば…い、い…」
折れた肋骨が刺さったのか、ジムゾンは、ごぼっ、と血を吐いた。視界が涙で霞んでいく。
が、胸を狼の足にかけられ、痛みに背を曲げる事も許されない。
「クック。まだ殺さねぇよ。オマエには何のチカラがある?」
「貴…様らに、言う…もの、か。や、やっ…と、分かっ、た。あれ、は…あれは、私たち…人間の希望だ…っ。」
話そうとする度に、口から血が溢れる。血が混じりまともに話せない。
「ハッ、ニンゲンなら、ニンゲンらしく、怯えて命乞いをしろよ。」
狼が嘲るように唸った。
「あ…ぁ、私は務めを果たせて、いな…い、…く、そ。あ、ぁ…神、よ…この…こ、のっ、バケモノ…め…」
「くくっ、ザンネンだ。」
心から愉しそうにニヤッと笑うと、狼は、その足を
…踏み抜いた。
踏み折れる音と何かが飛び散る音。そして辺りは静かになった。
狼は窓の方を見やると、ニッと笑い、「ジムゾン」に向き直った。
教会堂に音が響き始めた。
ペーターは汗だくで、窓の下にへたり込んだ。
驚きと恐怖、そして…強い憧れ。
どうやって部屋に戻ったのだろう。
ペーターは自分のベッドの上で、無言でシーツをかぶった。
窓からは大きな月が輝いていた。
白く輝く大きな牙。
胸にかかる巨大な足爪。
真っ黒で月の光に輝く毛皮。
口の端から覗く赤く大きな舌。
「んむ…。」
寝返りをうったリーザはペーターに気がついた。
「おはよぅ、ペーター。」
「あ…お、はよう。リーザ。」
「ペーターが起きてるなんて、珍し、いね。」
「ペーター?」
リーザはぼぅっとしているペーターに気がついた。
「あ、だ、いじょうぶだよ。」
リーザは心配そうにペーターを見つめていた。
「おはよぅ。」
目をこすりながらヨアヒムが階段を下りてきた。
「おはよう、ヨアヒム。食べるかい?」
オットーがパンを机に並べていく。
「あー…いや、いいや。ちょっと食欲ない。」
昨日のモーリッツを思い出すせいか、どことなく気まずい雰囲気が流れている。
「オレは貰うぜー。パメラも食うか?」
と、ディーターが声をかける。
「私もいいわ。後でもらう。」
「…おはよう。」
戸を開け鋤を置くと、ヤコブが声をかけた。
オットーとヤコブの間の空気に、気付いているのか気付いていないのか、ヨアヒムが明るく返す。
「おはよう、ヤコブさん。」
「もう仕事してきたんですか?」
パメラも後を続ける。
「…あぁ、少し、な。」
ヤコブは相変わらずの無愛想な返事をした。
「ヤコブ。パン食べる?」
オットーが別のパンを並べながら、ぎこちなく声を掛ける。
「…あぁ。貰おうか。」
少しの間を置いて、ヤコブも返事をした。
その様子を、窓木に腰掛けるニコラスが静かに見つめる。
「あれ?神父さんは?」
「本当だな。いつも朝早いのに。」
空気が張り詰める。
「まさか…」
立ち上がりかけるヨアヒムを、ディーターがとめた。
「まだ全員集まってねぇ。見にいくとしてもそこからだ。」
「まだ他に来てないのは、ペタ、リザと、トーマス。それからレジーナもか。」
「村長もかな。」
「あたしはいるよ。」
少し眠そうな声でレジーナが奥の部屋から出てくる。
「寝坊しちゃったかい?」と、時計をみやる。
「大丈夫だよ、レジーナ。」
「今日は皆、早いみたいなの。」
「そうかい。あぁ、けど、もう起きてきてもいい時間だね。ヨアヒム。チビたちを起こしてきてくれるかい?」
普段は底抜けの明るさのレジーナですら、どこかしら表情が固い。
「さて、と。来てないのはジムゾンとアルビンか。」
居間に集まった顔を見渡しながら、ヴァルターが言った。
「アルビンさんはともかく、神父さんが来ないなんて珍しいわね…。」
「アルビンさんは荷物も無いみたいだよ。」
ヨアヒムが階段を下りながら言った。
ヴァルターが心配そうにニコラスを見た。
「とりあえず…教会に行ってみるか。」
ニコラスが腰を上げた。
「ヨアヒム、ディーター。トーマスもだ。来てくれ。あぁ、何人かはここにいてやってくれ。」
「僕も行きます。」とオットー。
「僕も!」とペーターが叫ぶ。
「ペーターは駄目だ。」ヴァルターが言下に言った。
「何で?僕もいく!僕、もう子供じゃない!」
「ペーター。だからこそ、リーザの傍にいてあげな。」
ニコラスはそう言うと、ペーターの頭に手を置いた。
ペーターは納得はいかないまでも、しぶしぶリーザの隣に、腰をおろした。
十数分後、男たちは教会堂の前に来ていた。
ヨアヒムが唾を呑む。
「開ける…よ?」
教会堂の戸が開かれ、中に光が差し込んだ。
教会堂の床は血にまみれ、奥に、赤く染まった聖衣が引き裂かれていた。
そして、その血溜りから外へと続く獣の足あとが残っていた。
「う…ぅ、っ…。酷い…。」
オットーが声を絞り出した。
「き、昨日、聖餐式に使うといって…パンを…。なのに…。」
「確かに…酷いな…。」
トーマスが呟いた。
「埋葬しなければな。ディーター手伝えるか?」
と、ヴァルターが「それ」から目を逸らしながら聞いた。
ニコラスは黙って頭を掻いた。
「いや、とりあえず、布をかけておこう。埋葬する前に、一度、宿に戻った方がいいだろう。」
宿に向かう男たちを照らす
日の光は、今や村全体を包み
悲しいほどに美しい煌きを放つ
教会に行った男たちを待つ間、朝食を準備する。
用意された朝食の前で、誰もが不安げな表情をしながら、言葉少なに男たちを待っていた。
「戻ったぜ。」
どやどやと足音がすると、ディーターを先頭に男たちが宿に入ってくる。
「神父さんは…?」
パメラが心配そうに声をかけた。
レジーナも口を開きかけたが、男達の暗い顔を見ると、そのまま閉じた。
「それじゃ、ジムゾンは…」
「あぁ、襲われてたぜ。酷い有様だった。」
ディーターが吐き捨てるように言った。
「結局、アルビンさんも見つからないし…。」
ヨアヒムが言葉をついだ。
大きく溜め息をついた。
「まだ埋葬してやれてない。後で何人か手伝ってくれると助かるな。」
ニコラスがぶすっとした様子で言うと、何人かが頷いた。
「じゃあ、行商人を除いて、あぁ、それと神父もだが、全員揃ってるな?」
ニコラスの問いに、ヴァルターが頷いた。
「じゃあ、朝食を取りながらで構わない。話を進めていこう。」
誰も食卓に手を伸ばさないのを見て、ニコラスは全員を見渡すと、言った。
「…どうした? 食べる気はしないかもしれないが、食べないとやっていけないぞ?」
「ヨアヒム食べないの?」
「ん、僕、ちょっと食欲ないよ。ほら…さっき、さ。カタリナ、食べて。」
「うん。」
「リーザは食べる?」
「う、ん…」
「ほら、どうした。」
と、パンに手を伸ばしたニコラスに続いて、ぱらぱらと何人かが適当に手に取る。
それを見ながら、ニコラスはパンを銜え、言った。
「じゃあ、占い師は名乗り出てくれ。」
ヨアヒムや何人かが周りを見渡す。
沈黙が流れる。
「誰も…いない、のかな?」
ニコラスは溜め息をつき、齧りかけのパンを手に取り、言った。
「恐いのは分かる。占い師として名乗り出れば、人狼に狙われることもありうるからな。が、それでも、奴らを追い詰めるために必要なんだ。占い師がいるなら、勇気をもって名乗り出て欲しい。」
「…しょうがないねぇ。」
少しの沈黙のあと、レジーナが溜め息を吐いた。
「あたしが占い師だよ。」
一度に皆の注目が集まる。
「オットーは人間だった。」
オットーはホッと救われたような顔を浮かべた。
「レジーナさんが占い師ということは―」
パメラが口を開くと同時に
「ねぇ、レジーナさん、本当に占い師なの?」
と、ペーターが疑問の声をあげた。
「そうだよ、ペーター。驚いたかぃ?わたしゃ―」
「じゃあ、レジーナさんは嘘ついてる! 僕が占い師だよっ!」
大きな声が部屋に響いた。
「昨日はヨアヒムにーちゃんを、今日はオットーにーちゃんを占った!二人とも人間だったよ!」
驚きがザッと皆の間を駆け抜ける。
「ペーターが占い師?」
「こんな子供が?」
「ペーター、悪戯はやめな。しょうがないねぇ。」
「悪戯じゃない!嘘付いてるのはレジーナさんじゃないか!僕が占い師だよ!」
「ペーター。冗談ならヤメろよ?」
「待った。何言ってるんだ、ペーター。占い師はあたしだよ。」
「…どちらも取り下げるつもりはないのか?」
トーマスが見合う二人に静かに尋ねる。
ペーターもレジーナも頷いてみせる。
「ニコラスさん。占い師が2人なんてことは…」
パメラが心配そうに聞いた。
「まぁ、どっちかは偽者だろう。」
「じゃあ、どっちも吊るし上げればイイじゃねぇか。」
ディーターが本気か冗談か分からない調子で言う。
「馬鹿なコトをいうな、ディーター。わざわざ占い師を殺すというのか?」
ヴァルターが厳しい声で言う。
「それに…子供もいるんだぞ?」
「いや、村長。少なくとも、子供だから、ってのは違うと思うぜ。」
と言いながら、ふとディーターは疑問をあげた。
「ん? 待てよ、レジーナ。お前、昨日は誰を占ったんだ?」
レジーナに注目が集まる。
少し思案する様子を見せるレジーナにディーターが言う。
「どうした? 占い師なら言っても問題ないだろ?」
「んー、と…実は、いや、ペーターを、占ったんだよ。」
とレジーナが少し言いにくそうに答えた。
軽い驚きが村人の中に広がる。
「ペーターを? なんでまた? 一番、狼っぽくはないガキじゃねぇか。」
ディーターが心なしか嘲るように言った。
「おぃ、ペーター。お前はなんでヨアヒムを占ったんだ?」
「…えっと、こんなこと言うと、ヨアにーちゃんは怒るかもしれないけど…」
少し言いにくそうにするペーターに、ディーターも、そしてヨアヒムも答えを促した。
「僕、カタリナねーちゃんを連れて、にーちゃんが一緒に飛び込んできたって聞いたときに、ひょっとしたら、狼がそれをわざわざやったんじゃないか、って思ったんだ。だって、ほら、狼に襲われたカタリナねーちゃんを助けたってんなら、皆、2人は狼じゃない、って思うでしょ? だから、僕、ヨアにーを占ったんだ。」
「…ふん。ガキにしちゃ面白い読みをするじゃねェか。」
ディーターがニヤッと笑った。
「じゃあ、そのついでに、あの旅人も占ってやれよ。」
ディーターがからかいながら、言った。
「オレはペーターを信じるぜ? レジーナよりよっぽど信頼できる。」
ニコラスはディーターを黙殺すると、帽子の影からペーターを見やった。
「ペーターを占ったのは、リーザがペーターのことを心配してたからさ!」
レジーナが吐き出すように言った。
「そうかぃそうかぃ。が、少なくともオレにゃペーターの理由が信じられるぜ?」
「で、で…も、ペーターのことが心配だった…の、は本当だ…よ。」
と、リーザが小さな声で言った。
「…占ってほしい…とは…思わなかっ…たけ、ど…」
「とりあえず、状況をまとめよう。」
ニコラスは息を吐くと、言った。
「占い師がレジーナとペーター。他にはいないな?」
ニコラスが皆を見渡す。
「で、オットーが人間なのは確定と。」
それみろと言わんばかりに、オットーがヤコブを見やった。
「さて、こうなれば、まとめはオットーがやった方がいいと思うが。」
「え、僕、ですか? そんな…僕がまとめ役なんて…無理ですよ。」
自信なさげにオットーが言う。
「ニコラスさん、お願いします。」
「俺もニコラスにやってほしい。あんたなら正しい判断をしてくれそうだからな。」
ヤコブがオットーを見ながら、ニコラスに言った。
ニコラスは複雑な表情で、村人を見渡した。
少し不服そうな顔をしているディーターや、心配そうな表情を浮かべるトーマスを除いて、ほぼ全員が異論はないようだった。
「じゃあ、一応はオレがまとめる。で、オットーもともに考えてくれ。」
溜め息を吐くと、ニコラスはオットーに言った。
再び、沈黙が部屋を満たし始めると
「あ、スープが焦げてる!」
張り詰めかけた雰囲気が、ヨアヒムの声で緩んだ。
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soraplusさんのキリ番リクエスト黒ログです。
課題:「狂人に惚れてる村人が、狂人の手引きで嬲られる。」
窓からは既に、長く斜陽が差し込み、日の終わりを告げていた。
ヨアヒムは赤く染まるカウンターに座り、考えを巡らせていた。
奥にはパメラが言葉少なにペーターを構ってやっている。
オットーとディーターは珍しく宿にいない。
アルビンはどこにいるのだろう。あの男はいつもいない。
そして、カタリナは―
「…ヨアヒム。」
周りを見渡しながら、カタリナが声をひそめヨアヒムに声をかけた。
「カタリナじゃないか。どうした?」
静かにカタリナは耳打ちをした。
「アルビンが?」
ヨアヒムが驚いた表情で聞きかえした。
無言で、しかしはっきりと、カタリナは頷く。
「そうか。」
ヨアヒムは憎しみに鼻に皺を寄せた。
「ありがとう、カタリナ。」
ヨアヒムは暗闇の中で目を瞑った。
静かに息を整える。
これから狩りが待っている。
ヨアヒムは木の上で、カタリナの言葉を思い出していた。
「アルビンが…か。」
遠くでペーターとパメラの声が聞こえる。
あの二人は殺させたくない。今日で、終わりだ。
木の下を、アルビンとディーターの声が通り過ぎた。
肩にかけた荷物を背負うのも今日で、終わりだ。
ヨアヒムは、目を開けると、大きく息を吸い込み、殆ど音を立てずに、静かに飛び降りた。
「ヨアヒム。どうしたの?」
いきなりの後ろからの声にギクリとして振り返る。
そこには無邪気な顔のオットーと、そして、少し緊張した面持ちのカタリナがいた。
「オットー。どうして、ここに…。カタリナも…。」
「いや、いきなりヨアヒムが落ちてきたから、さ。えと、ヨアヒム、それは?」
と、オットーはヨアヒムが手にしていた、弓と矢筒を指差した。
「これは…その、何でもない。」
「ふぅん…。そっか、ぁ。」
「ククっ、クククッ。ヨアヒムが狩人かぁ。カタリナの言ってた通りだなっ!」
オットーの口調の変化にヨアヒムが目を見開く。
「…オットー? 何を言ってる?」
「ク、クッ…ヒャハっ。見せてやる、よ…!」
身を折り曲げたオットーの背中から銀色の毛が噴き出す。
見る見るうちに人狼の姿へとオットーは形をかえ、高く遠吠えをあげた。
「な…どういうコトだ? 最後の狼はアルビンじゃないのか…?
辺りの木を震わす遠吠えに、ヨアヒムは驚きを露わにした。
狼が顔をあげ、赤い眼でヨアヒムを見た。そして、ゆっくりと、眼を細める。
「…ッ!」
反射的に矢筒から矢を掴む。
「カタリナ、離れろッ!」
ヨアヒムは後ろに飛びずさると
―狼は身をかがめ―
弓を引き上げると同時に引き絞り
―飛びかかる―
放つ―
―矢が狼の頬をかすめ―
と同時に、右小指に挟んだ矢を番え、
―狼が手を振り上げ―
引き絞―
―振り下ろす―
引ききれない―
耳障りな音が聞こえ、何かが弾けた。
弾けた弦がヨアヒムの頬に当たり、血が飛ぶ。
矢の先が狼の脇腹に刺さっている。
ヨアヒムは手元の弓を見た。
弓は、真ん中より少し上で見事に掻き切られ、残りは狼の足元に転がっていた。
ヨアヒムは託すように、狼を見た。
が、狼は矢羽をつまむと、矢先を簡単に引き抜く。
「銀の矢尻…ねェ。ククっ。こんなモンか。」
「く…そ。」
ヨアヒムは、簡単に矢を投げ捨てる狼に、ナイフを抜き出した。
「カタリナっ。まさか…君は占い師じゃあ、無かったのか…?」
ヨアヒムは狼から目を逸らさずに、カタリナに叫んだ。
「ヨアヒム…ゴメンね。私は、人狼に憧れたんだ。あの強大な力。暗闇の中に光る赤い眼。月明かりに輝く銀白色の毛皮。私は、この身を全て、人狼に捧げたかった。人狼に抱かれたかったんだ。」
「そんな…、そのために…っ」
そこまで言ったヨアヒムは、狼から視線を逸らしたことに気がついた。
狼が爪を振り下ろすのと、ヨアヒムが振り向きざま、狼に向かってナイフを払ったのは殆ど同時だった。
ナイフが飛び、あっさりと体が吹き飛ばされる。
ヨアヒムは木に叩きつけられ、地面に倒れ落ちた。
「うっ…ッ。」
ヨアヒムは薄目をあけ、転がったナイフに目をやる。
ヨアヒムは顔を上げ、僅かに右腕に入った薄傷を舐める狼を見やった。
そして、一息込めて、ナイフに飛びつく。
が、狼は当たり前のように、事も無げにその手を踏み折った。
「ぎゃッ!」
「う、ぅ…ぁ…っ」
「イイ音だよなぁ、ヨアヒム? ククっ。」
狼の眼が残酷な光を湛え、口元が笑いに歪む。
激痛を堪えながら、ヨアヒムは立ち上がった。
「負けるもの…か。まだ…皆が…っ」
その言葉に、狼の口元が嬉しそうに歪む。
「くくッ。ヨアヒム。イイことを教えてやるよ。ディーターとペーターもオレの仲間だ。さっきの遠吠えで、アルビンもパメラも、今頃、嬲られ、遊び殺されてるぜ。ヒャハっ。この村の人間はもう終わりだ。」
「う、嘘…だ。そんな、信じな、い…。」
ヨアヒムの顔が驚きと絶望に変わる。
「ヒャハっ。ヨアヒム。もう気付けよ。カタリナが占い師じゃなかったこともまだ信じるのか?」
黙り込むヨアヒムに、狼はゆっくりと、歩を進めた。
ハッと気付き、顔をあげるヨアヒムの腹を、狼は簡単に掻き裂いた。
「ぎゃぁッ!ぁ…ぐ…ッ!」
ヨアヒムは激痛に体を折り曲げる。
狼は血にまみれた爪をベロリと舐めた。
「うあっ、ぁ…ぐ…ッ、くっ…」
狼は転がるヨアヒムを残し、カタリナに向き直った。
カタリナは、自分を忘れたようにその場を見つめていた。
「なんて、美しくて、綺麗なんだろ、う…。」
狼は、ニヤッと笑い、カタリナを抱えあげると、ヨアヒムを見下ろしながら、ゆっくり、とその頬を舐めあげた。
「ん…んん。」
カタリナは気持ち良さそうに目を閉じる。
折れた手を激痛に押さえながら、絶望の表情でそれを見上げるヨアヒム。
「止め…ろ、カタリナ…」ヨアヒムが声を搾り出す。
狼はニィッと笑うと、ヨアヒムを軽く蹴り転がした。
それでもヨアヒムの体は大きく飛び、傍の木に叩きつけられる。
「ぅ…ぎゃ、っ、ひ…」
「カタリナ。オマエはオレを愛してるか?」
「…はい。」
カタリナは嬉しそうに答えた。
狼は満足そうに笑うと、ヨアヒムを一瞥する。
その眼に残酷な光が宿る。
ヨアヒムは叫んだ。
「まさ、か…止め…っ」
狼の口が愉しそうに歪むと、カタリナの肩口に喰いついた。
「あ、くッ…」
激痛に顔をしかめるも、カタリナは幸せそうに狼の顔に手を伸ばした。
狼は差しのばされた手を鼻で押し避けると、カタリナの体を抱えなおし、さらに喰いつく。
カタリナの腕が激痛に、狼の毛皮を握りしめた。
狼が、血まみれの顔でヨアヒムを眺め下ろす。
「な…っ、なんで…っ。カタリナ…っ。なんでカタリナまで…っ」
「くくッ、役にたったからこそ、喰い殺してやるんだ。それが狂人の使い道じゃねェか。」
ドタリとカタリナの体が落ち、狼の爪の音が近づく。
痛みに涙が溢れているものの、カタリナは満足げに荒く息をしている。
「う…ぁ、あ…いや…だ、死にたく、な…い、誰か…」
ヨアヒムが涙まじりの声で叫んだ。
狼が舌をなめずる。
涎が細く糸となってヨアヒムの顔に垂れた。
ヨアヒムが怯えた目で、目の前の狼を見上げる。
「ひ…っ、ゃ、ぃ…ゃ…だ…殺さな…い、で…」
狼はこれ以上ないというぐらいの満足げな笑顔でヨアヒムを眺め下ろした。
ヨアヒムは周りを見渡し、カタリナを見、そして、泣きそうな表情で、狼を見た。
「ぃ…ゃ、だ…ゅ、るして…」
狼は口元まで笑いながら、その手を、涙まみれの顔に、振り下ろした。
静かになったヨアヒムの前で、狼は真っ赤に染まった右腕を舐めた。
狼はカタリナに向き直ると、軽々と抱えあげる。
カタリナの息が浅く、荒い。
「さ…いご、に…キス、を…」
呟くようなカタリナの言葉に、狼はニヤっと笑い、開きかけていた口を閉じる。
狼はカタリナの顔を眺め、ゆっくりと顔を近づけると、唇をあわせる。
口から覗く牙が唇に触れ、カタリナは幸せそうに、目を瞑る。
狼は、カタリナの頬を撫で、大きな舌でカタリナの顔を舐めた。
そして、喉を銜え、
ゆっくりと、牙を噛み合わせた。
一つの村が滅びた夜、空には大きな満月が輝いていた。
村人は人間という意味と確認した上で。(ニヤ
風が遠い上の梢を揺らす音が聞こえる。
敷き詰められた落ち葉の上を、2人は歩いた。
時折、濃い枝葉の間から、月の光が見え、隠れた。
舞い落ちる葉が、まるでダンスを踊るかのようで、
照らす月が、2人を祝福するライトのようで、
2人は森の中、手を取り、踊り、抱きしめあった。
「ヨア…」
パメラが、ヨアヒムの髪を撫で、頬を撫で下ろす。
「パメラ。」
ヨアヒムは頬を擦り付け、匂いを嗅いだ。
素敵な石鹸の匂いが鼻についた。
背中に回した手に力が入り、唇が近づく。
と、そのとき
「邪魔するよ。」
音楽が止み、2人は静まり返る森に驚いた。
そして、声のした方を見た。
茂みから、ニコラスが姿を現した。
「あまりにも月が綺麗なんでね。」
ニコラスは言った。
「間に合わなくなると思ったのさ。」
「何なんだ、ニコラスさん?」
ヨアヒムの声は、はっきりと、無遠慮なニコラスへの苛立ちがこもっていた。
「二人とも、人狼騒ぎはまだ終わっていないというのに、無用心じゃないのか?」
ニコラスの目はその口調とは逆に、笑ってはいなかった。
パメラが無言のまま、ヨアヒムの服を握り締めた。
「パメラ…」
ヨアヒムがパメラを抱き寄せる。
警戒するヨアヒムを笑いながら、ニコラスは言った。
「ヨアヒム。」
「君に渡したいものがある。」
「…?」
雰囲気とは違った思わぬ発言に、ヨアヒムは訝しげにも、パメラを抱く手が緩む。
「ま、いわば、二人へのプレゼントだな。」
「ほら、受け取りな。」
ニコラスは手に持っていた巻かれた何かを放った。
ヨアヒムがそれを受け取ろうとした瞬間
「…ッ!!」
パメラを突き飛ばし、ニコラスの刃がヨアヒムの腹を抉った。
放られたそれは、湿った落ち葉の音をたて地面に落ちた。
「あぁ、気にするな、ただの毛布さ。」
ニコラスがこともなげに言う。
その手には、赤く、銀色に鈍く光るナイフがあった。
ヨアヒムの服が、見る見るうちに赤く染まっていく。
「…っぐ!」
膝が崩れ、ニコラスを睨みあげるヨアヒム。
「ヨアヒム!?」
パメラが叫ぶ。
「ニコラスさん! なんてことを…!?」
パメラが叫んだ。
「まさか…貴方が…お、狼は貴方だったんですね!!」
「ずっと探していた…!」
ニコラスの顔は悦びに歪み、パメラの声は殆ど聞こえていないようだった。
「やっと見つけたんだ…!」
「この手で、オマエらを殺してやるのが夢だった…!」
「どうだ? 力は入るか?」
自分を睨むヨアヒムを見ながら、ニコラスは嬉しそうに言った。
腹を握りしめる指の間から、血が滴り落ちる。
「パメラ、逃げろ…。」
「い、嫌…っ。ヨアを置いてなんて逃げれるわけない!!」
「逃げて、皆に伝えるんだ…!」
ヨアヒムは、泣きそうなパメラに怒鳴った。
「逃げても、意味はないがな。」
ニコラスがヨアヒムから目を離さずに言った。
「オレは、大丈夫、だから…さ。お茶入れて、待っててほしいな。」
笑いかけたヨアヒムに、パメラは涙ぐむと、ゆっくり、恐々と立ち上がった。
「ヨア、待ってるからね…?」
頷くヨアヒムに、パメラは泣きそうな顔のままゆっくり背を向けると…
一気に走り出した。
パメラの姿と、湿った落ち葉の音が、森の向こうに消えた。
「さて…と」
それを見送ったヨアヒムの声の調子が変わった。
「…やってくれたな…ニンゲンが…」
ヨアヒムはすっくと立ち上がった。
腹から手を離すと、手についた血を「ベロッ」っと、舐め取る。
ヨアヒムが身を屈めると、真っ黒な毛が、服を破き、吹き出した。
爪が尖り、千切れた服が落ち、耳が伸びていく。
「…ふッ!」
その隙を逃さず、ニコラスはナイフを躊躇いなく、まっすぐに突き出した。
仕留められるかに思えたナイフは、下を向いたままの狼に、刃ごと掴まれた。
顔を上げたヨアヒムのそれは既に、紛れも無い狼の顔だった。
狼は、ニコラスを眺め下ろすと、辺りを震わせる大音量で吼えた。
その吼え声の凄まじさに、ニコラスの頬を汗が伝う。
「…ハッ! ニンゲンふぜいが、オレの愉しみを邪魔しやがって…!」
狼はナイフを放すと、憎しみに鼻に皺を寄せ、隣の木に爪をかけた。
「今夜、あの女を嬲り殺してやるつもりだったんだ…!」
「アイツはオレを信頼しきってた。そんなオレに喰い殺されるんだ…!」
「酷く残酷にな…!そのカオを眺める愉しさがオマエに分かるか…?」
爪に力が入る。
「…食事の愉しみを邪魔しやがって!!!!」
狼が声を荒げると、一抱えはありそうな木が、一気に掻き切られた。
ニコラスに近づく狼の後ろで、大きな音を立て倒れていく。
「…寄るな、狼…ッ!」
ニコラスがナイフを構えなおす。
「純銀のナイフだ。いかに人狼といえど、その身を切り裂くぞ…!」
成る程、長い間、この日の為に手入れされてきたであろうナイフは、実に不自然なく、主人の手の中で輝いていた。だが、狼の背後に横たわる幹の大きさに比べれば、心もとなく見えるのはしょうがないことかもしれなかった。
予想以上の狼の力に、恐れを隠せないニコラスを見て、狼は少し満足そうに言った。
「あァ、大丈夫さ。ニコラス。そんなに心配するナよ。」
「今日、オレは『狼』のオマエを『際どく』殺して、パメラの元に帰る。」
「オレは狼じゃあなくなり、皆に信頼され、よりパメラを喰い殺すのを愉しめるってワケだ。」
歌うように狼は言った。
「この…くそ狼が…!」
ニコラスが憎しみに溢れた表情で、言った。
「そんな愉しみのために人間を殺しているのか…!」
「クックっ、そんなも何も、ニンゲンなんぞゴミ同然の存在じゃねェか。」
狼は、当たり前のように笑いながら、一歩を踏み出す。
「オレらに嬲り殺されるぐらいしか使い道がねェなら、悦んでほしいぐらいだぜ?」
ナイフを構えたまま、ニコラスの足が一歩下がった。
それを眺めながら、狼は笑いに顔を歪めると、言った。
「オマエの家族もよく覚えてるぜ、ニコラス。イイ悲鳴をあげてくれた。」
ニコラスの動きが止まった。
「小さな町の、町外れの家だったなぁ?」
「…オマエ…か…!」
ニコラスが声を絞り出した。
「小さなオマエの娘を、生きながらに嬲り殺すのは、なかなか愉しめた…!」
狼はこれ以上無い程の笑顔で、ニコラスを眺め下ろした。
途端に、ニコラスは激情に駆られ叫んだ。
「その…っ、口をっ、黙れぇええッ!」
ナイフを構え、突進するニコラス、その足を蹴り転がした。
もんどりうって転がるニコラス。
「オレに爪を立てられ、牙を喰い込ませられながら、必死で泣き叫んでた。」
立ち上がる目が憎しみに燃える。
「オマエを呼びながらなあ?」
狼の大きな舌が、口周りを舐めた。
「黙れッ!その汚らわしい口を閉じるがいいッ!!」
ニコラスは吼えた。
「殺してやる…ッ!」
狼は顔を歪めると、言った。
「ハッ!脆弱なニンゲンがオレを殺す?…やってみるがイイ!」
落ち葉を踏みしめる音もさせず、狼はニコラスに近づく。
ニコラスは憎しみのまま、ナイフを握った。
「…ッ!!」
蹴り転がされた足に激痛がはしった。
折れては、いない…
ニコラスは自分自身に言いきかせた。
ニコラスは息を吸い込むと、ナイフを構えなおした。
痛みが激情を抑えてくれた。
落ち着け。
冷静になれ。
狼の挑発に乗るな。
熱くなっては、駄目だ。
油断しているコイツなら…
ニコラスは、しっかりと狼を見据えて、一息に突き出した―
が、ナイフは、あまりにも簡単に狼の手に掴まれた。
ニヤッと狼の口元が歪むと、狼は、爪先を丸めて殴りつけた。
ニコラスの前の景色が飛び、キナ臭い匂いが鼻の奥でする。
ふらつきながらニコラスは立ち上がる。
足元がおぼつかない。目の前の狼が揺れる。
その一撃は、狼にとって軽く小突くものでも、
人間にとっては、十分すぎる衝撃だった。
目の前がグラつ、く…
爪を丸めた一撃で…こんな…
勝てる気がしない…
どうすればいい…!?
混乱するニコラスの前に、狼が満面の笑みで立つ。
ニコラスの反応が遅れる。
喉を鷲掴みにされると、地面に叩きつけられた。
耳が遠くなる。
上を見上げた。
狼が笑ってやがる…
ニコラスの身体が蹴り転がされ、胸に足爪がかけられた。
コイツの腹―
さっき切りつけた傷が残っている―
銀のナイフは効かないワケじゃあ…な、い…?
ニコラスは手の中の感触を確かめた。
―がさっ―
と、そのとき、狼の背後で音がした。
狼が反射的に振り向く。
そこには、驚いた表情のパメラがいた。
「な…んで、ニコラスさんが…。」
パメラは周りを見渡した。
「ヨアヒムは…ど、こ…?」
パメラの視線が、狼と合った。
―人狼の眼だけは、人間であったころと変わらない―
「ヨ、ア…?」
「ヨアが、狼…だったんだ、ね…?」
パメラが泣きそうな表情を浮かべる。
パメラを見る狼の足の力が緩んだ。
「…っ」
ニコラスが足を払うのと、狼が振り向き、ニコラスに向かって爪を振り下ろすのは同時だった。
が、そのとき―
「…ヨアっ!!」
パメラの叫ぶ声に、狼の爪先が躊躇った。
と、同時に、ニコラスのナイフが狼の胸に突き上がった。
「…ヨア。」
「駄目だよ…。」
泣きそうな顔のパメラが、ヨアヒムに、笑いかけた。
狼は困惑したような表情を浮かべると、
パメラを見、
自分の胸を見ると
根元まで差し込まれたナイフを掴んだ。
そして、赤く染まっていく半身を眺めると
ゆっくりと膝を折り、
前のめりに、
倒れた。
倒れゆく狼の身体が、パメラの伸ばした手をすり抜けた。
「ヨアぁ…」
パメラは顔をぐしゃぐしゃに崩すと、狼の傍らに座り込んだ。
狼は薄目を開け、パメラを見た。
ニコラスは、傍の木に背をもたせかけ座り込んだまま、ぼんやりとそれを眺めていた。
狼は自分の身体から力が抜けていくのを感じていた。
死が迫ってきていた。
五月蝿い。
耳元で泣き喚くこの女は誰だ。
オレの獲物じゃないか。
なんで、こんなニンゲンが
―パメラ。
パメラ?
知っている。
そうだ、好きだった。
大好きだった。
んあ?
なんでオレは、パメラを襲おうとしてたんだ?
だって、
あの日、
パメラを襲った獣から、パメラを守ったのは
オレじゃないか。
パメラは、傷を負ったオレに泣いてくれてたじゃないか。
おかしい、な
なんで、こんな
いつの間に…
僕は
パメラが…
パメラの事が…
既に人間の姿に戻ったヨアヒムの隣で
パメラは泣きじゃくっていた。
森に一人、パメラの声が響いていた。
それでも、2人の周りに秋の葉は舞い降りていた。
一枚、大きな赤い葉が、その上に、舞い落ちた。
できたのは少し前でしたが、今回は、コラボ企画の為、公開が遅れてしまいました。
その企画の内容というのが、某コミュニティサイトのキリリクから始まりました。
「シナリオライターきばちゃん&7色の声優へきの人狼シアター」
同時にキリリクを踏まれたbdhekiさんとで、合作のリクエストを受けるというものでした。
概要は、僕が、狼werewolfと狩人bdhekiさんの黒ログを「製作」し、それを、現役声優のhekiさんが「感情を込めて読む」というもので、11月に行われる、あるオフを目標に製作を進める、というものでした。
実際、僕が、大元の黒ログ製作までに大分時間をかけてしまい、音入れにあまり余裕をもって臨む事が出来なかったかもしれません。
ともあれ、先日、コラボ企画は、bdhekiさんの音入れまで無事終了し、リク出題者も聴いたようですので、bdhekiさんに確認した上で、今回の「ボイスサンプル」まで公開まで許可して頂けました。
(http://www001.upp.so-net.ne.jp/bdheki/voice.html)
※現在、試聴ができません
がhekiさんのHPで、一番下、「番外」の「キリリクコラボ」が、今回の作品になります。
以下、hekiさんの注意書きです。
>※注1:長いです。
>※注2:重いです。
>※注3:ナレ一部聞き取りづらくてすいません。BGMの音量大きかったかもしれません。
また、今回の作品には、hekiさんの同期の「名取亜紀」さんが、パメラ役で登場しています。
名取亜紀さんのHPはこちら。
【名取亜紀/HONEY VOICE】
http://www.geocities.jp/aki_honey_voice/
hekiさんには、お忙しい中、可能な限りの要望を聞いて頂きました。
最後、時間が足りず、詳細やパメラの声などを詰めるのは出来ませんでしたが、
初めてのこういった形での製作は、楽しいものであり、とても勉強になりました。
黒ログのイメージにぴったりで、個人的にとても気に入っているのが、
最後、人狼ヨアヒムが人間に変わっていく辺りから、エンディング(テーマ)
の所で、作品の一番の見所ではないかなと(超個人的にw)思っています。
キリリクの出題者の方達、hekiさん、名取さん、並びに、
いつも黒ログを読んで頂いている皆さんに感謝して。
werewolf
Ellieさんから頂いていたリクエスト
1、「処刑シーンで泣かせるシーンを作る」
2、黒ログ前にちょっぴりえっちな描写
上記、2リクエストのうちどちらかを、との事だったので、
1を選択させて頂きました。完成が遅くなってしまったので、
2の要素も少しだけ入れています。苦手な人は注意して下さい。
ヨアヒムは身震いをした。
急に肌寒さを感じたのだ。
暫くぼうっとするヨアヒムの耳に届く扉を叩く音が大きくなってきた。
と、ヨアヒムは自分が殆ど裸でいることに気がついた。
扉を叩く音がはっきりしてくると同時に、急に何もかもが現実味を帯びてきた。
自分の腕の重さに気付くと、自分の腕にぐったりとパメラが頭を預けていた。
その口に何か… 赤い…?
そう思った瞬間、大きな音をたてて扉が破られ、怒り狂った村人達が飛び込んできた。
振り返ったヨアヒムが見たのは、憎しみに燃えた村人の顔と、自らに向かって振り下ろされる棒だった。
ヨアヒムの足元で、古い木の階段が乾いた音をたてた
どこか陰湿な雰囲気が嫌いで、子供の頃から近寄りたくなかった。
(―いつだって、最近だってそうだ―)
ヨアヒムはぼんやりと思った。
(こんな場所なんかに来たくないのに―)
ヨアヒムは裸に薄い布一枚という格好で、後ろ手に括られ、トーマスに背を押されながら、ぼんやりと考えていた。
全身の酷い痛みが、仔細を思い出し深く考えることを妨げていた。
目の端には、村人のもつ松明の明かりが見える。村人達の叫ぶ声が、どこか遠くで響いているように感じる。
トーマスがヨアヒムの背中をどん、と押した。
ヨアヒムの身体が、処刑台の上に押し出される。
ハッと顔を上げたヨアヒムは、言った。
「トーマス、聞いて…違う、何でこんなコト、に?」
トーマスは何も答えなかった。
「パメラは…?パメラは何処に?」
自分を一番信頼してくれていたのはトーマスだった。
村人に袋叩きにされ、処刑台に連れてこられる前に、自分に布をかけてくれたのもトーマスだった。
「お前が一番知っているんじゃないのか」
トーマスは搾り出すようにそれだけ言うと、ヨアヒムを処刑台に繋ぎとめはじめた。
鎖の音、鉄の匂い、視線を合わせないトーマス、全てが嫌だった。床の黒い跡が気になってしょうがない。
「待って、おかしいよ。さっきまでパメラはいたじゃないか。」
トーマスは冷たいような寂しいような目を、ヨアヒムに向けると、言った。
「お前が人狼だったなんて、今でも信じたくないよ」
抵抗しようと力を込めるヨアヒムの体をトーマスが片手で押さえつけた。
トーマスの腕の強さをヨアヒムはよく知っていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!僕が狼!?一体、何の話なの!?」
「…そうやって今までオレ達を騙していたんだろう!!」
温厚なトーマスの予期しない怒鳴り声に、ヨアヒムは思わず黙り込んだ。
「狼の遠吠えが聞こえた」
トーマスが少し早口で話し始めた。
「それは、すぐ近く、村の中で聞こえた」
「皆を集めていると、パメラとオマエが見つからないことが分かった」
トーマスがいつもしている革のバンドを外して、ポケットに入れる
「ペーターが向こうから走ってきて、言った。『パメラねーちゃんの所に狼が!』」
「すぐに子供達を避難させ、男達が集まった。武器を持ってな。」
「全員が殺気立ってた。だが、俺は杞憂であってほしいと願い続けてた。」
「だが、戸を開けたトコロにいたのは、パメラと、それを抱くオマエだった。」
「泣きながらパメラを抱くお前は、人間の姿ではあったけれど、裸で、すぐ傍にお前の服が千切れて散乱していた。」
「ディーターがお前を殴り、パメラを引き離した。だが、既にパメラは死んでいた。」
ヨアヒムの顔が驚きに包まれた。
「ちょっ、と、待って…、パメラが死ん、だ…?」
聞こえないかのようにトーマスは続けた。
「…そして、爪で引き裂かれたようなパメラの服には沢山の黒い毛が付いていたんだ。」
呆然とするヨアヒムに、トーマスは言い切った。
「オマエが狼で、変身し、パメラを殺したんだ。」
「…そんな、パメラが…、違、う、僕じゃない…僕の筈がない…」
「お前はこの夜、ずっとパメラといたんだろう?」
立てかけてある斧を手元に引き寄せながら、トーマスが聞いた。
「…い、いた。いたけど、僕じゃない…」
「ペーターの証言、黒い毛、裸のお前、千切れた服、死んでいたパメラ、そして、今のお前の言葉、お前以外に誰が狼だ?」
ヨアヒムは慌てて答えた。
「違う、僕、パメラが死んでいたなんて知らない…!気が、気が付いたら、僕は裸で、パメラを抱いてて、そ、そう、パメラの口元に赤いのがって思ったんだ。そしたら、ドアが破られて、それで、皆が飛び込んできて…」
「もういい、ヨアヒム」
トーマスが皮手袋をはめた。
「違う…!聞いて…っ、違う!僕じゃない!僕、狼なんかじゃない!!」
トーマスは表情を変えずに、左手にも手袋をはめる。
ヨアヒムは、斧に目が釘付けになりながら、早口でまくし立てた。
「僕、村の皆を襲う狼を憎んでた!トーマスも知ってるだろ?パメラを守るって言ってた!」
「僕はパメラが何で泣いてるのか分かんなくて…、元気付けようとしたんだ」
「うるさい、この化け物!」
叫ぶヨアヒムの顔に石が当たった。石を投げたのはカタリナだった。
「オットーを返せ!パメラを返せ!!うゎぁぁああああっ!!」
「違う!僕はパメラも殺してない!オットーもだ!」
ヨアヒムは叫び続けた。
「気が付いたときには、パメラが泣いていたんだ!僕は慰めようとしてた!」
「抱きしめたり、…キスしたり、したんだ!」
「…気が付いたら、僕は裸でパメラを抱きかかえていたんだ」
トーマスが下の広場を見た。
村長がゆっくりと頷く。
「違う…信じて…」
ヨアヒムが声を絞り出した。
「僕、狼なんかじゃない…」
「パメラを殺すはずが…ない…」
「僕…、僕は、パメラが大好きだったんだ…」
ヨアヒムの声は泣きそうになっていた。
トーマスが重さを確かめるように、斧を2、3回、処刑台の床に当てた。
そして、ゆっくりと、斧を頭上に抱え上げる。
「ヨアヒム、さようなら…だ。」
恐怖に見上げるヨアヒムの目が、雲から現われ出た月を捉えた。
月の光が真っ直ぐにヨアヒムの目の中に入り込む。
ヨアヒムの目の前が白くなり、世界がゆっくりになっていった。
ベチャ…っ
暗い部屋の中、狼の大きく熱い舌がパメラの頬をゆっくり、舐め上げた。
「ひ…ッ」
パメラの体がガクガク震える。
「ねェ、パメラ。なンで泣いてるンだ? 笑ってクレよ、なァ?」
震え続けるパメラに、狼は目を細めた。
「どうしタんだ、パメラ?そんなに泣いちャあ愉しくないじゃナイか。」
狼がパメラの腹を爪でなぞる。
「ひッ、やっ、ぁッ」
パメラの身体がしなった。
「ぃゃ、だ…許して…許し、て…ください…」
パメラの頬を何本も涙が伝う。
「そんなンじゃあ、なく、もっとイイ声を出してクレよ。いつもみたいに、サ?」
「ヨアヒムはそんな声じゃ…ない…。イヤだ…ぃ、やだ、よ…」
パメラは泣きじゃくりながら、首を振った。
「んー…ッ? いつもと変わらナイぜェ?」
舌なめずりをする狼の口から、舌がのぞいた。
「だ、誰か…たす、助けっ…」
パメラは手を伸ばすも、肩を掴む狼の力は人間には強すぎた。
腕の中で暴れるパメラをじっと眺めると、狼は思いついたように、言った。
「そうだ。パメラ、キスしてクレよ。ほラ、いつもみたいに」
パメラは驚いたように顔をあげた。
「ヤ、だ…、ゅる、許して…やめ、て…」
狼が口周りを舐めると、大きな赤い舌が見えた。
必死に逃げようとするも、狼の鉄のような腕に抱きすくめられ、もがくことも叶わなかった。
「ひ…ぃ、ャ…ひ…」
狼の顔が近づき、パメラは泣きじゃくりながら、目を閉じた。
唇に、口先の毛と大きな牙が触れる。
「ひ…ッ!」
口を塞ぎ、唇の中に狼の舌が入りこんだ
「んッ、グ…っ、ふグ…っ!」
狼が舌を舐めまわす。
狼は口を放し、聞いた。
「パメラ、笑ってくれないノか?」
パメラは恐怖のあまりに声をあげられず、ただ涙をボロボロ流していた。
「パメラぁ」
べろッ、と、狼の舌が、流れ落ちる涙を舐めとった。
「ひッ!ャ、ぁ…っ!」
弾かれたように、パメラは泣きじゃくりながら懇願した。
「食べないで…お願いだから…食べない、で…」
「パメラ、そんなコト聞きたくナイんだ。笑ってよ? ねェ?」
「ひ…ゃ、め…っ、ゅるし、て…」
「ねぇ、パメラ。どうしたら喜んでくれるンだ?」
狼は真っ赤な眼でパメラを覗き込んだ。
「うあ、ぁ…ヤ、だ…、殺さ、ない…で…ぉ、ね…がい…」
「いつもみたいに、抱きしめたら喜んでくれるノか?」
「ゃ、だ…、も、ぅ…助け、て…」
狼は、涙でグショグショになりながらも、必死で手を伸ばし抵抗するパメラを抱えた。
パメラの小さな顔は、狼の厚く黒い胸に隠れてしまう。
パメラは抱きすくめられたまま視線だけを上にやると、狼の大きな牙が見えた。
狼はパメラを見下ろすと、大きな舌で口回りを舐めずり、そのまま、ゆっくりと抱きしめた。
「んぁ…っ!ん、ぐ…っ!」
パメラがくぐもった声を上げた。
「ぎゃ、あッ!」
と、腕の中で何かが折れる音がして、静かになった。
「パメラ?」
暫く声をあげないパメラに気がつくと、狼はパメラに声をかけた。
「パメラ…?」
狼は、ゆっくりと腕の力を緩めると、自分の胸を見た。
黒く深い胸の毛は、赤く血に濡れていた。
「パメラ!?…パメラっ!?」
パメラは口から血を吐いていて、どれだけ声をかけても、もう、動かなかった。
狼は爪で頭を掻きむしった。
「ッがゥ…、そンな…オレ、そんなつもりじゃ…」
「なンで、こんな簡単に、抱きしめて…死んで…」
手に触れる感触に、狼は自分の身体を眺め回した。
「そッ、そンな…、何で…何で、気付かなかッ、オレが…オオカm」
「パメラを…大好きなパメ、ラ…を」
狼は、パメラを抱えたまま、凄まじい声で、吠いた。
―僕はパメラを喜ばせたかった―
―本当に、それだけだったんだ―
―ヨアヒムはもう言葉を発しなかった。
ただ、頬を伝った涙の跡だけが白く光り、
天上に輝く月が処刑台を赤く照らしていた。
ひょっとすると、大分、分かりづらい展開かもしれません。
ちなみに、Ellieさんに見せた文に2行だけ追加してあります。
「切ない」「やるせない」物語だと思いますが、読者の方が「泣ける」話なのかは分かりません。
なかなか、そういう物語って難しいですよねw
よぅ、ペーター。…やってくれたな。たかがゴミ同然のニンゲンが、オレ達人狼をここまで追い詰めてくれるなんてよ。ん?どうした、ペーター?オマエ自身がオレを狼だと疑ってたじゃないか。んー、皆?ぐっすり寝てるぜ。まぁ、助けを呼ぼうとしても、オマエが叫ぶより早く、その喉を噛み千切ってやるけどなァ?それに、ニンゲンが何匹いたって、オレがオマエを喰うのを止められるヤツなんていやしない。所詮はニンゲンだからな。
クック。ウシろは壁だぜ?周りを見渡したって、どうしようもないさ。ワザと逃がして、悲鳴をあげて必死で逃げまわるのを、後ろからゆっくり数時間かけて追いかけて、もう逃げられないと知ったときの、あの絶望したカオを見ながら、じっくり嬲るってのもなかなかタノシいんだがな。…ん?ホントだぜ。ニンゲンの嬲り方なんて、いくらでもあるからな。
まぁ、ニンゲンなんて、いかにウマそうな悲鳴をあげ、泣き叫んで、オレらに喰われるかだけだからな。んー。ペーター、今のオマエのカオも、なかなか食欲をそそるぜ。最後の晩餐、嬲り尽くして、喰ってやるよ…!骨も残さねェから、安心して喰われろ。んー…。必死で抵抗してくれよー?でないと愉しくねェんだからよ?(ベロッ)
ビチャッ…ビチャッ…ビチャッ…(血溜りの中を歩く) あァ、ウマかった。あんまりウマそうだったから、悲鳴が聞こえねェ場所にわざわざ抱えてって、存分に悲鳴をあげさせてやったよ。涙を流しながら、逃げ回るサマはホントに食欲をそそった。今すぐ、喰いちぎりたいって衝動を抑えて嬲るのは中々、忍耐がいったが…最ッ高だったぜ。ボロッボロに引き裂いた血まみれの服をニコラスのベッドに掛けといてやったよ。
よぅ、ニコラス。コンバンハだな。何だよ、そんな怯えて後ろに下がって、よ。ツレねェじゃないか。あァ、この姿じゃあ判らねェか?「ヨアヒム」さ。昨日は楽しかったぜぇ?オマエの息子の怯える様子は堪らなく食欲をかきたてた。涙を流しながら必死で逃げ回ってよォ。逃げられるハズがねェのにな?クック。ゆっくり、追いかけて嬲ってやった。猫が鼠を弄ぶようにな。
逃がしては捕まえ、嬲っては逃がして、よ。ニンゲン共でアソんでると、猫のキモチもよく分かるぜ。悲痛な悲鳴を最ッ高に楽しみながら喰ってやったよ。で、今夜は誰を喰ってやるか考えてたんだがな、愛する息子を失って嘆いてたオマエを見てたら、喰っちまわなきゃ可哀想に思えてきてよ?オマエも息子を見習って、精一杯、楽しませてくれよ?
ぐゥ…!ニンゲンふぜいが…!オマエら、下等なニンゲンがッ!脆弱で、ちょっと爪で嬲れば、カンタンに壊れちまうようなオマエらニンゲンが…!オレ達人狼を吊るだと…?ハッ!笑わせる。そもそも、オマエらニンゲンが狼の姿に戻ったオレ達に勝てるとでも思ってんのか?逆に全員喰いちぎって、バラっバラにしてやるよ…!月の加護がある限り、オレらは…
月が…無い。厚い雲にふさがれて…無い。なッ…そんな、待てよ、オレらへの、月の護りは何処へ行ったんだ?
オレの愛する月よ…。オレらはいつだって、ニンゲンを嬲って、喰ってきたじゃないか。ある時は、母子をそれぞれの目の前で嬲り、アソんでやった。ある時は、この力の思うまま街を滅ぼしたこともあった。アンタはオレらにその力を与え、人間の存在を消すように、ヤツらを喰い尽くすように、その本能に語りかけてきてくれたじゃないか。人間なんて、必要ねェじゃんかよ…。何でだよ…。
アンタがいなきゃ、オレらはその力の10分の1も出せないじゃないか。脆弱な、下等なニンゲン並みになっちまう…。アンタ自身が、オレらにニンゲンを嬲り、蹂躙し、喰い尽せと言ったのに…。何でなんだ…よ。少しでイイ。アンタが僅かでもその光を照らしてくれたなら、数秒のうちに、アンタの前にコイツらの死体を並べて見せるぜ。だから…
アンタはいつだって、オレらを照らしてくれていた。オレはいつもアンタの存在を感じていたんだ。オレの漆黒の毛皮が、殺したばかりのニンゲンの血で輝いていたのは、アンタの光の下でじゃないか…。オレが遠く吠え、歌ったのは、アンタの下で、アンタのためにじゃないか…。なぜ、今日はオレを照らしてくれないんだ?
アォォォォォオオオオ―――――――――――――ン!
イイさ、それでも、オレはアンタに憧れる。まだ喰い足りないが、それでも、それなりにステキな人生だった。先にいった仲間達もそう思ってるさ、きっと。我らが大いなる月に栄光あれ、我らが狼達の爪と牙に、またその上に月の護りあれ。人間共に悲鳴と破滅、滅びあれ。
パメラー。コンバンハー。や、元気かぃ?一人一人、襲われていくねぇ。悲しいかぃ?ん、何を不思議そうに見てるんだぃ?僕が悲しそうに見えないって?フッフ。そうかもね。ん、ココは何処だって?…目も覚めてきたかな。けど、そんなコトはどうでも良いんだ。ね、あのさ、パメラ。僕のコト、好きかぃ?…いや、大切な事なんだ。答えてよ。
「全ての男を私の足元にひざまずかせること」?ハッは。オマエらしいじゃないか。パメラ。んー…ザンネンだな。なぁ、知ってるか?自分を愛し、信頼してくれるヤツを喰うのが一番、愉しいっての、よ?さっきまで信頼していたヤツが、狼だと知った時のカオ、堪らなくそそるんだぜ?オマエがオレを愛していてくれたなら、もっと旨く喰えたんだがなァ?クック。んー…?そう、そのカオだ。イイじゃないか。
…何だ、何をそんなに腰を抜かしてるんだ?ツレねェな。オレの元の姿なんだぜ。もっと喜んでくれよ。ニンゲン共は持ち得ないこの毛皮、キレイだろー。夜空のように漆黒で…。これが、ニンゲンの血で月に煌くんだ。オマエに見せてやりたいぜ。あァ、けど…喰っちまうから無理かぁ。クック、どうしたよ、さっきまでの元気なパメラはどうしたんだ?まともに口が動いてないぜー?ん、よく聞こえねェよ。ん、あァ。「誰か助けて…」か。
ハッ!パメラ。イイことを教えてやる。
誰 も 助 け ら れ は し ね ェ ッ て。
イイな、最高だぜ、そのカオ。なぁ、考えてみろよ。ニンゲンなんぞ、オレらがちょいと爪を乗せただけで、首が跳んじまうんだぜ。脆すぎて笑っちまうよ。気をつけねェと、カンタンに壊しちまう。そんな脆弱な生き物が、オレの目の前でオマエを助けられるとでも思ってんのか?
んー、理解したようだな。その、涙でグッショグショのカオ、堪らねェな。だからニンゲンを喰うのは止められねェんだよ。…お、立ち上がるのか。クックク。そんな足取りで逃げられるのか?逃げてもイイが、必死で逃げてくれなきゃ、ツマらないぜ?クックック。ほらほら、しっかりしろよ?
…んー、じゃあ、こうしてやるよ。1時間待ってやる。その間、命の限り逃げるがイイ。宿に帰れたなら、オレが狼だってコトを伝えられるぜ?1時間たったら追いかける。オレがオマエを見つけら、オマエを殺す。心配しなくてイイぜ。すぐには殺さねェよ。噛み付き、放り投げては、噛み付いて、生きながら喰ってやるよ。最ッ高の悲鳴をあげてくれよ?…ほら、どうした、さっさと逃げろよ。
…クック。オィオィ、まだこんな所にいるのか?クク。つまらねェな。フン、信じられないってカオだな。ハッ、笑わせるなよ、ニンゲンにしちゃあ遠い距離なんだろうが、オレ達にとっちゃあ、こんな所、ものの数分だ。ククッ。足がぼろぼろになるまで走り続けたのも、ぜーんぶ、無駄だったワケだ?無駄に足掻くニンゲンを見るのは堪らねェな。さて、約束だ。イイ声で泣き叫んでくれよ?
(ビチャッビチャッ…)…あァ、最高だ。イイ声で鳴いてくれたな。悪くねェ狩りだった。最後まで叫び続けてたからな。ま、もっと必死に抵抗していたら、もっとそそったんだが。まァ、ニンゲンはアレが限界か。さて、嬲りツクしたし、腹も満たせたからな。そろそろ帰るか。パメラ。オマエ、それなりに楽しめたぜ。ま、骨も残っちゃいないが、な。
人狼に喰われたカタリナ・シェファードをモデルとして作られたメカリナ。
墓下に出てきたのは、そのモデルの方。そのカタリナを喰った人狼と言うのは…。
カタリナ・シェファードだっけか。あのニンゲンもオレが喰ったんだが。人形も、そのモデルも人狼に喰われて終わり、なんてな。クック。あの娘の泣き叫びようは最高だったぜ。なるべく人に近づけてから、あの悲鳴をもう一度出させてみるか…。(ベロッ)どんな味がすんだろな。
夢うつつに昔の記憶を思い出す。
メカリナ…ちガゥ、カタリナ…カタリナ・シェファード…。何処かで見たコトが…。あァ、勿論、昔喰ったのは憶えている…。あの悲鳴や助けを請う声…。あの堪らなく甘い味も…。が、そうじゃない…何かもっと別のコト…もっと大切なハズの何かを…。
昔、あの日、ケモノに襲われて助けを求めてた…のは、カタリナ。それを助けに飛び込んだのは…オ、レ…か?オレは何をした…?必死で、何とかしようとした…。アイツを、カタリナを逃がして…。それから、オレはどうなった…?
蝋燭がゆらめく…。…横たわっているオレ。体中が自分の物ではないかのように痛く、息がアツく苦しかった…。隣で泣いて、るのは…カタリナ…で。…何で泣いているんだ?…オレは何故カタリナを助けたんだ…?アイツはオレにとって何なんだ…。
息がアツい…。自分の息の音しか聞こえない…。痛いのか痛くないのか…もう痛みを感じない…。これが死ぬってこ、とかぁ…。体が火照って何も考えられない…。ぼんやりと、隣で眠るカタリナが…見え、涙のあと…?そうか…、カタリナは一緒に付き合って、た…。愛し、合ってたんだ…。
体が軋む…。アツくて…。蝋燭にゆれる自分の影…が、アツい、体を丸め…毛が逆立って…毛?何で…毛が、漆黒の、カタリナが目を…あの影はあのケモノの…、目を覚まして、コッチを…痛みが…見て、驚き…あぁ、も、う…イイ。アツくて…なにも考え…な…ぃ…。
ハァッ…ハァッ、ハァ…。カタリナがオレを怯えた目で見上げてる。何て、素敵なカオをしてるんだ。いいニオイがする。怯えと恐怖と涙のニオイが。オマエを喰いたい。嬲り、噛み付き、引きちぎって、カタリナの存在を感じたい…!
涎を、涙でいっぱいのカオに垂らしてやる。怯えた表情を楽しみながら、首を掴んで、カオを下から上まで、ゆっくり、と舐めあげる。カタリナがちいさく呟く「助けて…」。愛しいカタリナ。堪らなく食欲と嗜虐心をそそる…。
…あァ、カタリナ。オマエ、本当にキレイな声だ。喰われながら、ちゃんとイイ声で鳴いてくれる。悦びが溢れる。オマエの悲鳴を聞きながら、愉しみながら、オマエをゆさぶり、喰いちぎる。オマエの、必死で手を伸ばし、涙を流すその表情もまた堪らなくウマいんだ。
んー?カタリナ、いやに静かじゃねェか。普段のオレに笑いかける陽気なオマエはどうした?ほら、見てくれよ、このカラダ。毛皮に付いたオマエの血が、月の光に透けて煌いてる。オィ、なんだ、もう死んじまったのかぁ?なんだ、案外脆いもんだな。オマエ、なかなかヨカッたぜ。マンゾクした。
ん…何か大切なコトを忘れて、ないか…?
…いや、何も…だ、な。ニンゲンを喰っただけだ。
人間から人狼へ変わる描写はずっとやってみたかったものの一つです。毎回の村で色々新しいカタチの黒ログを創って行こうと思っていますが、これは、ある程度、良い感じに創れたと思っています。感想頂けたら嬉しいですw。
(コンコン…)ねぇねぇ、ゲルト?起きてる?…あは、良かった。なかなか普段話せないしさ。ちょっと食事する前に聞きたいことがあってさ。あのね、これ分かる?「昼は二本足。夜も二本足、でも、頭の上に耳二つ。これなーんだ?」
答え、人狼さ。カンタンだろ。僕がキミの首を刎ねるコトぐらいに…カンタンだ。(グシャッ!)
ククッ。「寝ることに関しては、ゲルトより僕の方が負けず劣らず」?刎ねとんだゲルトのカオを見てくれよ。何が起きたのか分からないまま、死んじまってるぜ?嬲っても良かったんだがな、腹減ってたし、手っ取り早くすましたかったからな。ニンゲン共が騒ぎ出す前に、さっさと喰っちまうか。
(ビチャッビチャッ…)カハッ。ベロッ(血にまみれた口まわりを舐める)。明日、ニンゲン共はこの喰い散らかされたコイツを見て、どんなカオするだろな。クック。楽しみだ。ニンゲン共の悲鳴と苦痛に満ちた宴の始まりだ…!あぁ、表に出る前に毛皮に飛び散った血を舐めとかねぇとな。クック。(ベロッ)
よゥ、こんばんはだな。レジーナ。何か今日は疲れちまってさ。あァ、酒はいらねェよ。もっとステキな飲み物があるからな。んー…、何を不思議そうに見てるんだ?口調がおかしいって?ハッは。違うぜ、レジーナ。オレは、もともと、こういう話し方さ。「ヨアヒム」なんてのはひ弱で優柔不断なただのニンゲンを演じてただけさ。オレの元の姿を見せてやるよ…ク、ゥッ…
…ハッ、ハッ…ハァッ。どゥ、だ?(ハッ、ハッ)キレイだろ?窓から差す月の光がイイ感じだな。ニンゲンを喰った後に、これがブチ撒いた血で煌くのが堪らないんだ。ククッ。んー…?どうしたんだ。驚いてモノも言えねェか?手探りしたって無駄だぜ。戸を開ける前に、オマエの喉を喰いちぎるなんて朝飯前だしな。叫ぶのも無理だ。まぁ、声が出せる状態じゃあ、なさそうだが。
そう怯えてくれるなよ。レジーナ。愉しくて堪らなくなってくるじゃねェか。(鼻先を寄せ)フンフンフン…あァ、イイ匂いだ。涙と恐怖のな。ボロッボロに涙を流しちまってよ。あァ、食欲をそそるぜ。クック。全く、普段の女主人レジーナはどうしたんだ?(ベロッ)クック、震えてるじゃねェか。安心しな、レジーナ。生 か し な が ら ゆっくり喰ってやるよ。最ッ高の悲鳴をあげてくれよ?じゃねェとつまらないからな。
カミュ?ハッ。そんなモノより、ニンゲンの血の方がずっと刺激的だぜ。レジーナ。オマエに味あわせてやれねェのがザンネンだが、オマエは嬲り喰いちぎって愉しんでやるから、我慢しな。じゃあ、何処から喰われたい?
今回は直前まで話してたので、そんなに…。
もうすぐ、夜が明ける…なぁ。なぁ、何でニンゲンに隠れて生きなければならないんだ?何故隠れるのはオレ達なんだ?オレ達の腕力、膂力、生命力、何をとってもニンゲンが勝るものなど無いのに…!あんな非力なゴミ共が…ッ!
なぜ、オレ達が悪なんだ?ニンゲンを殺すから?ハッ!ニンゲン共で比べ物にならない程多くのニンゲンを殺してるじゃねェか。オレ達は仲間同士で殺しあうなんて馬鹿なコトはしねェ。ニンゲンなんぞ、滅ぼされてしかるべき存在じゃねェか。オレ達が喰って、何が悪ぃんだ?
占い師ペーターを思いっきり、残酷に喰ってやろうと準備してました。あっさりGJされました…。
よぅ、占い師殿。お疲れ様だな。ん、ペーターどうした?何で本物って分かってるかって?そりゃカンタンだぜ。アルビンはオレの仲間だからな。オマエが本物さ。つまり、オレが狼、ってコトだな。「ひっ…!」か。オマエの驚くカオが見れるとはなぁ?見回したって無駄だって。周りのヤツらは気付かねェよ。ま、気付いたとしても助けられるヤツなんていねェがな。
さてさて。…どうしてくれるか。オマエさんのお陰でなかなか大変な状況なんだぜ?たかがニンゲンごときに、なァ?…ん?逃げないのか、だ…と?ゥウ、グルルルルルルル…ッ!(ペタを掴み上げ、牙を寄せる)小僧、言葉に気をつけろ…ッ!何で、ニンゲンごときゴミ同然の下等生物相手に逃げなくちゃあなんねェんだよ。オレらが、ニンゲンを、狩るんだ。思い上がるのもいい加減にするがイイ!
んン?何だ、てめェ、漏らしちまってんのか。ハッ!イキがっててもただのガキだな。オマエの怯えたカオ見てると、さっきのも別に気にならねェな。ただのガキだ。嬲りがいのある、な。(ベロッ)ククッ、オマエを喰いたくてしょうがなかったんだぜ?(ベロッ)クック。震えてるな。そのカオだよ。クククッ。「ぁ、ゎ、ゎぁ…ぁ」って声になってねェぜ?どこから喰いちぎってほしい?すぐには殺さねェよ。
生きながら、絶命するまで、ゆっくり嬲って、悲鳴を愉しんでやるよ。(顔の上に涎を垂らす)クック。あァ、なんだって?ん、「もう殺して…」かぁ。ハッ。つれねェじゃないか。もっとイイ声で鳴いてくれよ?ほら、もう少し突き立ててやるからよ…。(ズブッ)
ククッ。何だ、まだイイ声で鳴けるんじゃねェか。出し惜しみする必要なんかねェのによ?
…あァ、愉しかったな。ん、どうしたペーター、もう瀕死か?つまらねェな。ニンゲンて何でこうも脆いんだ?こんな生き物が繁殖してるなんてホンと信じられねェ。ペーター。オマエ、もう悲鳴あげねェし、いらねェや。もう嬲っても面白くねェしな。喰ってやるよ。あぁ、涙でグジョグジョのオマエのカオに涎を垂らしながら、牙をあててカオを舐めまわしてやった時の表情は、それなり愉しめたぜ。…フン、もう聞こえてねェか。じゃな。
何か、ご感想なりを書いていただいたら、きっと咽び泣きます、嬉しくて。
■□■今の感じ■□■
人狼創作-二次創作に紹介していただきました。感謝!